草あやめ(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
呼び声ばかりの苗の花
- 文字数
- 2,950字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
文語調の軽やかな文体で、借家の庭に植えた苗のことを綴った随筆風の小品。朝の納豆売りや苗屋の呼び声が聞こえる町の暮らしのなかで、名前だけ立派な「シヽデンキウモン」という苗を、家の者たちが冷やかしながら育てる。やがてその花が咲き、友人が草菖蒲だと教えてくれるまでの、のどかな時間が描かれる。初出は図書カードに記載がない。
あらすじ
内容の要旨。二丁目の借家に暮らす筆者の一日を、納豆売り、歯入れ屋、苗売りといった行商人が通る様子とともに描く。夏のはじめ、苗屋から苗を七、八種買った際、呼び声の勇ましい『牡丹咲の蛇の目菊』と『シヽデンキウモン』を、五銭ずつ余分に出して買う。植えた『シヽデンキウモン』は庭の白い紫雲英の陰に隠れ、家の者たちは名ばかりの草だと冷やかす。ある日、紫雲英の間に薄紫の小さな六弁の花が咲いているのを見つけ、鉢に移すと毎朝、花の数を増やす。訪ねてきた友人の宙外君が、その花を草菖蒲だと教えてくれた。
冒頭部(原文より)
二丁目の我が借家の地主、江戸児にて露地を鎖さず、裏町の木戸には無用の者入るべからずと式の如く記したれど、表門には扉さへなく、夜が更けても通行勝手なり。但知己の人の通り抜け、世話に申す素通りの無用たること、我が思もかはらず、然りながらお附合五六軒、美人なきにしもあらずと雖も、濫に垣間見を許さず、軒に御神燈の影なく、奥に三味の音の聞ゆる類にあらざるを以て、頬被、懐手、湯上りの肩に置手拭などの如何はしき姿を認めず、華主まはりの豆府屋、八百屋、魚屋、油屋の出入するのみ。
「草あやめ」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
忘れたり、斯道に曙山君ありけるを、花一ツ採りて懐にせんも惜く、よく色を見、葉を覚え、あくる日、四丁目の編輯局にて、しか/″\の草はと問へば、同氏頷きて、紙に図して是ならん、それよ、草菖蒲。女扇の竹青きに紫の珠を鏤めたらん姿して、日に日に装増る、草菖蒲といふなりとぞ。よし何にてもあれ、我がいとほしのものかな。
「草あやめ」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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