艶書(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
坂道の出会いと一通の手紙
- ミステリ
- 恋愛
- 文字数
- 10,933字
- 読了目安
- 約22分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
泉鏡花の短編。五月の坂道で、花籠を提げて病院へ見舞いに向かう婦人が、見知らぬ男から行く手に気の違った男が出ると注意される。坂の途中で交わされる二人の会話を中心に、人の心の動きと、どこか不吉な気配とを重ねて描く。旧字旧仮名で書かれ、初出は確認できていない。
あらすじ
五月半ば、赤十字病院下の坂。花籠を提げて病院へ見舞いに向かう美しい中年増の婦人が、坂の上から下りてきた男に呼び止められる。男は、病院裏の土塀のあたりで砂利を投げつけてくる気の違った男に出くわし、危うく難を逃れたのだと話す。怖くなった婦人は病院へ行くのをやめ、男と同じ電車で戻ることにする。ところが、婦人の帯の間から手紙の端がのぞくのを見た男は、血相を変える。それは男が前日に受け取り、始末に困りぬいていた艶書で、いつのまにか落としていたのを婦人が坂の下で拾っていたのだった。男は蒔絵師の旗野礼吉といい、手紙が世間に知れれば相手の女に迷惑がかかると言う。婦人は中を見たと告げ、見舞いの相手は自分の旦那であること、花は青山の墓地で手向けの花を集めて作ったものであることを明かし、礼吉を凍りつかせる。二人は急いで電車に乗るが、坂に現れた狂人は走る電車に飛び乗ろうとして弾き飛ばされ、命を落とす。
登場人物
- 旗野礼吉 美術学校出の蒔絵師。手紙の始末に悩んでいる
- 婦人 花籠を提げた中年増。病院へ旦那を見舞いに行く途中
- 砂利を投げる男 病院の土塀のそばにうずくまる狂人
冒頭部(原文より)
「あゝもし、一寸。」 「は、私……でございますか。」 電車を赤十字病院下で下りて、向うへ大溝について、岬なりに路を畝つて、あれから病院へ行くのに坂がある。あの坂の上り口の所で、上から來た男が、上つて行く中年増の媚かしいのと行違つて、上と下へ五六歩離れた所で、男が聲を掛けると、其の媚かしいのは直ぐに聞取つて、嬌娜に振返つた。
「艶書」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
が、此電車が、あの……車庫の處で、一寸手間が取れて、やがて發車して間もなく、二の橋へ、横搖れに飛んで進行中。疾風の如く駈けて來た件の狂人が、脚から宙で飛乘らうとした手が外れると、づんと鳴つて、屋根より高く、火山の岩の如く刎上げられて、五體を碎いた。 飛乘る瞬間に見た顏は、喘ぐ口が海鼠を銜んだやうであつた。 其も、此の婦のために氣が狂つたものだと聞く。……薔薇は、百合は、ちら/\と、一の橋を――二の橋を――三の橋を。
「艶書」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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