一人ぼっちのプレゼント(山川方夫)のあらすじ・登場人物
贈る相手のいない冬
- 家族
- 恋愛
- 文字数
- 9,128字
- 読了目安
- 約18分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
一月前、四歳の弘を浪にさらわれた夫婦が、海に面したホテルに来ている——山川方夫の短編。「私、弘のいないクリスマスなんて、耐えられない」。そういって妻は別居を決心し、麻布の友人のアパートへ移る。プレゼントとは誰に贈るものなのかを問う、静かで澄んだ一編。
あらすじ
海岸公園のベンチで、良子と夫は轟音をたてる冬の海を見ている。九月、たった満四歳の弘は浪にさらわれ、いまも見つかっていない。「へこたれたら、へこたれたとたんに終りだってさ、人間は」と夫はいい、明日から店に出るという。だが良子には、目の前の男がまるで見知らぬ他人にしか思えない。もし海に飛びこんだら、弘と一つになれるかしら。……「まるで昨日のことみたいだ」と夫は呟く。「あっという間に、もうすぐクリスマスだ」。その言葉に良子の頬が慄えた。前はクリスマスなんてなんでもなかった。飾りつけやプレゼントやご馳走を工夫するあの日は、弘のためにあったのだ。「弘は、今年、私に、プレゼントをくれるはずだったの。ママの好きな、お花の束をあげるねって……」。私がほんとうになにかをあげたくて、いろいろ考えるのがたのしいその相手、それだけが本当に必要な人間、本当に愛する人なんだわ——そういって彼女は別居を告げ、麻布の同級生・真弓のアパートへ移った。……イヴの夜、真弓を送り出した良子は孤独に耐えかね街に出る。誰もが美しい包装の品を幸福げに抱えているなかで、彼女だけがすべてのプレゼントに無関係だった。ふらふらと入った洋品店で、彼女は男物の革手袋を買う。翌日の昼近く、外泊から帰った真弓が細長いボール箱を抱えて立っていた。「ほら、プレゼント、花束よ」。贈り主の名は、死んだ弘だった。
登場人物
- 良子 四歳の弘を海で失った母
- 夫 老舗の若旦那。眼鏡をかけた三十歳前後の男
- 弘 浪にさらわれた四歳の息子
- 真弓 良子の昔の同級生。テレビ・タレント
冒頭部(原文より)
ホテルは海に面していた。といっても、ホテルと海との間には、まず幅のある舗装道路があり、それから海岸公園のわずかばかりの緑地帯がある。海はその向うに、白や淡緑色の瀟洒な外国汽船や、無数の平べたい艀や港の塵芥やを浮かべながら、濃い藍色の膚をゆっくりと上下していた。
「一人ぼっちのプレゼント」山川方夫(青空文庫)
末尾部(原文より)
「私ね、真弓には、花束、自分で自分に贈ったこといわなかったの。真弓はだから、はじめっから、あれはあなたのプレゼントだって思いこんでいるのよ」 「真弓が?」 いいながら男はライターと煙草を出す。女の手がかこって、男は白い煙を吐く。 「そうなの。真弓、それでご機嫌だったわ」 「なぜ?」 「あら、自分で考えてよ」といい、女はまた笑った。「彼女、私がいると、おかげですごく品行がよくなっちゃうんですって」
「一人ぼっちのプレゼント」山川方夫(青空文庫)
原文を読む
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