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二人の稚児(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物

女人を知らぬ稚児の煩悩

  • 幻想
  • 心理

谷崎潤一郎 1918年(大正7年)4月 「中央公論」

文字数
17,772字
読了目安
約36分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 滋賀県

この作品について

比叡山に育った二人の稚児を通して信仰と煩悩を描いた短編。1918年(大正7年)4月、雑誌「中央公論」に発表された。女人禁制の霊場で育ち、女人とは夜叉のごとき悪魔だと教え込まれた少年たちが、それでも「美しい幻」への好奇心を抑えられなくなる。山を下りた者と、山に残った者。二人それぞれの行き着く先を、王朝物語を思わせる静かな筆致で描いた谷崎の異色作。

あらすじ

十五の千手丸と十三の瑠璃光丸は、物心つく前から女人禁制の比叡山に預けられ、貴い上人のもとで育てられた。外面は菩薩に似て内心は夜叉のごとしと経文に説かれる「女人」とは、いったい何なのか。二人は子供らしい好奇心から語り合ううち、年上の千手丸のほうが深く思い悩むようになる。ある春の明け方、彼は煩悩の正体を見極めるため半日だけ山を下りると告げ、そのまま帰ってこなかった。半年後、瑠璃光丸のもとに使いが訪れ、浮世の美しさを説く千手丸の長い手紙を差し出す。一夜考え抜いて迷いを断ち、山に残る道を選んだ瑠璃光丸だったが、やがて彼の胸にも煩悩の曙光が兆し、上人に教えられて法華堂に参籠する。満願の夜、夢に現れた気高い老人は、彼の前世の因縁を語りはじめた。

登場人物

冒頭部(原文より)

二人の稚児は二つ違いの十三に十五であった。年上の方は千手丸、年下の方は瑠璃光丸と呼ばれて居た。二人は同じように、まだ頑是ない時分から女人禁制の比叡の山に預けられて、貴い上人の膝下で育てられた。千手丸は近江の国の長者の家に生れたのだそうであるが、或る事情があって、此の宿房へ連れて来られたのは四つの歳のことである。瑠璃光丸は某の少納言の若君でありながら、やはり何かの仔細があって、よう/\乳人の乳を離れかけた三つの歳に、都を捨てゝ王城鎮護の霊場に托せられたのである。

「二人の稚児」谷崎潤一郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

よう/\頂上に達したと思われる頃であった。渦を巻きつゝ繽紛として降り積る雪の中に、それよりも更に真白な、一塊の雪の精かと訝しまれるような、名の知れぬ一羽の鳥が、翼の下にいたましい負傷を受けて、点々と真紅の花を散らしたように血をしたゝらせながら、地に転げて喘ぎ悶えて苦しんで居た。その様子が眼に留まると、瑠璃光は一散に走り寄って、雛をかばう親鳥の如く、両腕に彼女をしっかりと抱き締めた。そうして、声も立てられぬほどの嵐の底から、弥陀の称号を高く/\唱えて、手に持って居た水晶の数珠を彼女の項にかけてやった。

「二人の稚児」谷崎潤一郎(青空文庫)

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