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刺青(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物

理想の肌を求める刺青師

  • 怪奇
  • 幻想

谷崎潤一郎 1910年(明治43年)11月 「新思潮」

文字数
5,637字
読了目安
約11分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1910年(明治43年)11月の『新思潮』に発表された谷崎潤一郎の短編小説。江戸の町を背景に、浮世絵師から刺青師となった清吉が、自分の技と美意識を注ぎ込める理想の肌を求めている。刺青を誇る男たちや、それを愛でる町の風俗を導入に置き、美しいものが力を持つ世界を描き出す。線や色、皮膚の質感を思わせる文章によって、絵を彫る行為に職人の誇りと欲望とが重なる。単なる江戸の再現ではなく、美に取りつかれた人の心を、装飾的な風景と身体の感覚で示すところに特色がある。永井荷風は『谷崎潤一郎氏の作品』で本作を取り上げ、当時の谷崎作品の中でもとりわけ高く評価した。後の谷崎文学にも続く、芸術への執着や人を魅了する美の力を、短い物語の中に集めた初期の一編である。

あらすじ

腕利きの刺青師・清吉は、理想の美女の肌に己の魂を刺し込みたいという秘めた願いを抱いていた。ある日、駕籠の簾から覗いた女の白い素足に、清吉は長年探し求めていた女を見出す。翌年の春、なじみの芸妓の使いに来たその娘を家に引き止めた清吉は、麻酔薬で眠らせたのち、渾身の力で彼女の背に大きな女郎蜘蛛の刺青を彫り上げる。目覚めた娘は激しい痛みに苦しむが、刺青とともに、内に眠っていた妖艶で強い女の本性が呼び覚まされる。娘は清吉に「お前さんは真先に私の肥料になったんだね」と言い、背の刺青を見せるのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

其れはまだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。殿様や若旦那の長閑な顔が曇らぬように、御殿女中や華魁の笑いの種が盡きぬようにと、饒舌を売るお茶坊主だの幇間だのと云う職業が、立派に存在して行けた程、世間がのんびりして居た時分であった。

「刺青」谷崎潤一郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「帰る前にもう一遍、その刺青を見せてくれ」清吉はこう云った。女は黙って頷いて肌を脱いだ。折から朝日が刺青の面にさして、女の背は燦爛とした。

「刺青」谷崎潤一郎(青空文庫)

名文

其れはまだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。

谷崎の耽美の世界を告げる名高い書き出し。「愚」が貴い徳でありえた時代への憧憬から、妖しい物語が立ち上がる。

親方、私はもう今迄のような臆病な心を、さらりと捨てゝしまいました。―――お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ

背に女郎蜘蛛を彫られた娘が、彫師の清吉へ言い放つ結び。彫る者と彫られる者の立場が入れ替わる一瞬。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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