朱日記(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
山の赤い猿と城下の大火
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 13,584字
- 読了目安
- 約27分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
末尾に1911年(明治44年)1月とある短編。雪国の城下町の小学校を舞台に、教頭が小使に、前の日に山で見た不思議な光景を語る。赤い猿の群れ、「城下を焼きに参る」と言う坊主、生徒に言伝てを頼んだ見知らぬ女――という妖しい前触れの後、その日の町を大火が襲う。教員室の火鉢や読本の「火」の字、赤い木の実など、赤と火のイメージが重なって、昼の学校を異界の入口に変えていく。
あらすじ
雪国の城下町の小学校。ある昼、教頭心得の雑所先生は、小使の源助を教員室に呼び、前日の夕方、山道で見た奇怪な行列の話を聞かせる。暮れかけた山の奥で、赤い猿の大群が押し寄せ、坊主が「城下を焼きに参る」と言った、と言う。その日の朝、生徒の宮浜は、見知らぬ「姉さん」から「今日は大火事になるので早く帰りなさい」と言伝てを受け、赤い木の実を渡されていた。女は、自分があるものに身を任せれば火は燃えない、とも語ったという。雑所が読本をめくると、火の字の載った頁が赤く浮かぶ。やがて怪しい火は寺の本堂の床下から燃え上がり、三時間のうちに城下の大半を焼き払う。逃げ惑う町なかで、雑所は昨夜の坊主に再び出会い、燃え広がる火の中で源助と息を吐く。
登場人物
- 雑所先生 小学校の教頭心得。山で見た奇怪な行列を小使に語る
- 源助 小使。雑所の話を聞き、出来事を見届ける
- 宮浜 母のない生徒。見知らぬ女の言伝てを預かる
- 見知らぬ女(姉さん) 赤い木の実を渡し、火事を知らせる女
冒頭部(原文より)
「小使、小ウ使。」 程もあらせず、……廊下を急いで、もっとも授業中の遠慮、静に教員控所の板戸の前へ敷居越に髯面……というが頤頬などに貯えたわけではない。不精で剃刀を当てないから、むじゃむじゃとして黒い。胡麻塩頭で、眉の迫った渋色の真正面を出したのは、苦虫と渾名の古物、但し人の好い漢である。
「朱日記」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
と見ると、恍惚した美しい顔を仰向けて、枝からばらばらと降懸る火の粉を、霰は五合と掬うように、綺麗な袂で受けながら、 「先生、沢山に茱萸が。」 と云って、長けるまで莞爾した。 雑所は諸膝を折って、倒れるように、その傍で息を吐いた。が、そこではもう、火の粉は雪のように、袖へ掛っても、払えば濡れもしないで消えるのであった。
「朱日記」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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