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耳無芳一の話(小泉八雲)のあらすじ・登場人物

夏の夜、琵琶の名手を呼ぶ声

  • 怪奇
  • 幻想
  • 翻訳

小泉八雲 1904年(明治37年)4月 「書き下ろし」

文字数
7,893字
読了目安
約16分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 山口県

この作品について

小泉八雲が英語で著した1904年(明治37年)刊の『怪談』の巻頭を飾る物語。ここに収録する日本語本文は戸川明三の翻訳である。舞台は壇ノ浦の戦いの記憶が残る赤間ヶ関。盲目の琵琶法師・芳一は、平家の物語を語る名手として知られ、音楽好きの住職の厚意で阿弥陀寺に暮らしている。ある暑い夏の夜、寺に一人残った芳一を、見知らぬ男が呼びに来る。高貴な人の前で演奏してほしいという申し出だった。物語は海辺に伝わる怪異と寺の由来を語ってから、一人の演奏者の体験へと近づく。足音、甲冑の響き、人々の話し声や衣擦れなど、芳一が耳で捉えるものを重ね、行き先の様子を伝える文章が特徴だ。過去の戦いを語り直す芸能と、その土地で生きる人々の記憶とが、夜の演奏という場面で結びつく。声を聞くこと、物語を伝えることを軸に進む怪談である。

あらすじ

七百年の昔、壇ノ浦の合戦で滅んだ平家一門の怨霊は、赤間ヶ関の海と浜辺を長く祟り続けていた。その赤間ヶ関に住む盲目の琵琶法師・芳一は、平家物語の弾き語りにかけては鬼神すらも涙するほどの名手であり、阿弥陀寺の住職に引き取られて世話になっていた。ある夏の夜、住職が留守にした折、芳一のもとへ身分ある武士と名乗る者が現れ、さる高貴なお方の前で演奏せよと誘う。導かれるまま芳一が壇ノ浦の段を弾き語ると、貴人たちはむせび泣いて絶賛し、七晩通うよう約束させられる。だが不審に思った寺男が後をつけると、芳一はあろうことか墓地の中、安徳天皇の墓前で亡霊たちに囲まれて独り琵琶を弾いていた。亡霊に憑かれていると悟った住職は、芳一の全身くまなく般若心経を書きつけ、呼ばれても声を出さず身動きせぬよう戒める。その夜また亡霊が芳一を呼びに来るが、経文に守られた芳一の姿は見えない。ただ経文を書き忘れた両の耳だけが宙に浮かんで見え、亡霊は証拠にとその耳をもぎ取って去った。血まみれになりながらも芳一は命を長らえ、以後「耳無芳一」と呼ばれて世に知られたのであった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 七百年以上も昔の事、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家すなわち平族と、源氏すなわち源族との間の、永い争いの最後の戦闘が戦われた。この壇ノ浦で平家は、その一族の婦人子供ならびにその幼帝――今日安徳天皇として記憶されている――と共に、まったく滅亡した。そうしてその海と浜辺とは七百年間その怨霊に祟られていた……他の個処で私はそこに居る平家蟹という不思議な蟹の事を読者諸君に語った事があるが、それはその背中が人間の顔になっており、平家の武者の魂であると云われているのである。しかしその海岸一帯には、たくさん不思議な事が見聞きされる。闇夜には幾千となき幽霊火が、水うち際にふわふわさすらうか、もしくは波の上にちらちら飛ぶ――すなわち漁夫の呼んで鬼火すなわち魔の火と称する青白い光りである。そして風の立つ時には大きな叫び声が、戦の叫喚のように、海から聞えて来る。

「耳無芳一の話」小泉八雲(青空文庫)

末尾部(原文より)

 深切な医者の助けで、芳一の怪我はほどなく治った。この不思議な事件の話は諸方に広がり、たちまち芳一は有名になった。貴い人々が大勢赤間ヶ関に行って、芳一の吟誦を聞いた。そして芳一は多額の金員を贈り物に貰った――それで芳一は金持ちになった……しかしこの事件のあった時から、この男は耳無芳一という呼び名ばかりで知られていた。

「耳無芳一の話」小泉八雲(青空文庫)

名文

ここに琵琶がある、だが、琵琶師と云っては――ただその耳が二つあるばかりだ!

全身に経文を書いた芳一の姿は亡霊には見えず、書き忘れた耳だけが闇に浮かぶ。迎えに来た平家の武者の亡霊が発するこの言葉が、怪談の山場となる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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