雪女(小泉八雲)のあらすじ・登場人物
吹雪の夜、河畔の小屋で
- 怪奇
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 3,351字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1904年(明治37年)刊の『怪談』に収められた小泉八雲の物語。英語の原作を田部隆次が日本語に訳した本文を収録する。武蔵の国で、老いた木こりの茂作と、十八歳の奉公人・巳之吉が森へ働きに出ている。吹雪に遭った帰り道、渡し船が対岸へ引き上げられ、二人は河畔の小屋で夜を明かすことになる。火をたく場所もない小さな避難所に、雪と風の音が迫ってくる。八雲は原書の序文で、この話を武蔵国西多摩郡の調布の農夫から、郷里の伝説として聞いたと記している。作中では土地や家族、日々の仕事を手短に示したうえで、吹雪の寒さや雪明かりを細かく描く。身近な生活の感触と、夜の自然の中で受ける不安とが接する語りである。怪異の説明を先に並べず、若い木こりの体験に沿って物語が進む。
あらすじ
武蔵の国のある村に、茂作と巳之吉という二人の木こりがいた。ある大層寒い晩、森からの帰り道で二人は大吹雪に遭い、渡し守の小屋に避難して眠りにつく。夜半、巳之吉が目を覚ますと、白装束の美しい女が老いた茂作に白い息を吹きかけ、その命を奪っていた。女は若く美しい巳之吉に目を留めると、若さを哀れみ、命は助けると告げ、ただし「今夜見たことを誰かに――たとえ母親にでも――話したなら、その時はお前を殺す」と厳しく戒めて雪の中へ消えた。一年ほどのち、巳之吉はお雪という名の、色白で美しい旅の娘と出会って妻に迎える。お雪は良妻となって十人の子をもうけ、年を経ても少しも容色が衰えなかった。ある晩、行灯のもとで縫物をする妻の顔を見て、巳之吉はふと若き日のあの吹雪の夜の出来事を語ってしまう。すると妻は縫物を投げ捨てて立ち上がり、「その雪女はこの私だ」と叫ぶ。子供らがいなければ今すぐ殺すところだと言い残し、お雪は白い霞となって煙出しの穴から消え、二度と姿を見せることはなかった。
登場人物
- 巳之吉 武蔵の若い木こり。吹雪の夜に雪女と出会い、命を助けられる代わりに口外を禁じられる
- お雪 巳之吉の妻となる色白で美しい女。その正体は雪女で、禁を破った夫のもとを去る
- 茂作 巳之吉の年老いた親方の木こり。吹雪の夜、雪女に命を奪われる
冒頭部(原文より)
武蔵の国のある村に茂作、巳之吉と云う二人の木こりがいた。この話のあった時分には、茂作は老人であった。そして、彼の年季奉公人であった巳之吉は、十八の少年であった。毎日、彼等は村から約二里離れた森へ一緒に出かけた。その森へ行く道に、越さねばならない大きな河がある。そして、渡し船がある。渡しのある処にたびたび、橋が架けられたが、その橋は洪水のあるたびごとに流された。河の溢れる時には、普通の橋では、その急流を防ぐ事はできない。 茂作と巳之吉はある大層寒い晩、帰り途で大吹雪に遇った。渡し場に着いた、渡し守は船を河の向う側に残したままで、帰った事が分った。泳がれるような日ではなかった。それで木こりは渡し守の小屋に避難した――避難処の見つかった事を僥倖に思いながら。小屋には火鉢はなかった。火をたくべき場処もなかった。窓のない一方口の、二畳敷の小屋であった。茂作と巳之吉は戸をしめて、蓑をきて、休息するために横になった。初めのうちはさほど寒いとも感じなかった。そして、嵐はじきに止むと思った。
「雪女」小泉八雲(青空文庫)
末尾部(原文より)
彼女が叫んでいる最中、彼女の声は細くなって行った、風の叫びのように、――それから彼女は輝いた白い霞となって屋根の棟木の方へ上って、それから煙出しの穴を通ってふるえながら出て行った。……もう再び彼女は見られなかった。
「雪女」小泉八雲(青空文庫)
名文
しかし、もしあなたが今夜見た事を誰かに――あなたの母さんにでも――云ったら、私に分ります、そして私、あなたを殺します。
吹雪の小屋で巳之吉の命だけを助けた雪女が残していく言葉。この約束が破られる日まで、物語は静かに張りつめたまま続いていく。
原文を読む
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