妖僧記(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
鼻の大きな蝦蟇法師の怪
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 5,973字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
泉鏡花の初期の短編。舞台は金沢郊外、野田山の奥にある黒壁という山あいの集落。蝦蟇を捕って食らう、鼻の異様に大きな乞食僧と、亡き母を慕って独り暮らす美しい娘との出会いを、漢文調の文語体で描く。本文の末尾には明治三十五年一月と記されている。
あらすじ
加賀の黒壁は、金沢郊外の野田山の奥にある魔境で、摩利支天を祀る山伏の寺を中心に、世を厭う人々が静かに暮らす山あいの集落である。その夏、三十四五の乞食僧が、湿地に蛆が湧くように忽然と現れる。顔は一面の鼻と見まがうほど大きな鼻をもち、蝦蟇を捕って食らい、杖に鼻をもたせて休む。人々は彼を「蝦蟇法師」と呼んだ。一方、旧藩士の娘で孤独の身となった清川お通は、母の墓参りだけを慰めに、老いた婢と二人で黒壁に暮らしていた。法師はお通のあとを付け回し、鏡を見せられると逃げ去るが、庭先に鼻を差し入れては戯れかかる。老いた婢が針の先で鼻を突くと、法師は怨みを抱き、魔法使いのように振る舞って婢を脅し、お通を自分に差し出せと迫る。お通が拒むと、婢は「母上の許しを得てから」と答えて断る知恵を授け、法師はいったん姿を消す。ところがある夕方、お通が母の墓に詣でると、その墓前には、結跏趺坐した蝦蟇法師が待っていた。
登場人物
- お通(清川お通) 亡き母を慕い、黒壁に独りで暮らす旧藩士の娘
- 蝦蟇法師 蝦蟇を食らい、大きな鼻をもつ不気味な乞食僧
- 老媼 お通に仕える婢。迷信深く、法師を魔法使いと信じる
冒頭部(原文より)
加賀の国黒壁は、金沢市の郊外一里程の処にあり、魔境を以て国中に鳴る。蓋し野田山の奥、深林幽暗の地たるに因れり。 ここに摩利支天を安置し、これに冊く山伏の住える寺院を中心とせる、一落の山廓あり。戸数は三十有余にて、住民殆ど四五十なるが、いずれも俗塵を厭いて遯世したるが集りて、悠々閑日月を送るなり。
「妖僧記」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
さては旨いぞシテ操ったり、とお通にはもとより納涼台にも老媼は智慧を誇りけるが、奚んぞ知らむ黒壁に消えし蝦蟇法師の、野田山の墓地に顕れて、お通が母の墳墓の前に結跏趺坐してあらむとは。 その夕もまたそこに詣でし、お通は一目見て蒼くなりぬ。
「妖僧記」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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