妙な話(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
顔を思い出せない、あの赤帽
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 4,811字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
旧友の妹・千枝子が経験したという三つの「妙な話」。地中海に出征した夫の消息が絶えたころから、彼女の前にはいつも、顔を思い出せない赤帽が現れる——芥川龍之介の怪異譚。
あらすじ
ある冬の夜、「私」は旧友の村上と銀座を歩いていた。今は佐世保に住む妹の千枝子の話から、村上は「妙な話」を語り出す。千枝子の夫は欧洲戦役中、地中海方面に派遣された軍艦の乗組将校だった。週に一度は届いていた手紙が絶え、千枝子の神経衰弱がひどくなったころのこと。雨の日、鎌倉へ行こうと中央停車場に入った彼女に、一人の赤帽が「旦那様はお変りもございませんか」と声をかけた。「では私が旦那様にお目にかかって参りましょう」——夫は遠い地中海にいるはずである。気づいたときには赤帽は人ごみに消え、その顔だけがどうしても思い出せない。二度目は、夫の同僚を出迎えた停車場で。「旦那様は右の腕に、御怪我をなすっているそうです」と背後から声がしたが、振り向いても誰もいない。やがて実際に夫は右腕を負傷して帰ってきた。三度目の話は佐世保からの手紙にあった。夫がマルセイユのカフェで、同じ日本人の赤帽に近状を尋ねられていたというのだ。——語り終えた村上と別れ、外へ出た「私」は長い息を吐く。三年前に千枝子が二度まで密会の約束を破り、永久に貞淑な妻でありたいと書いてよこした理由が、今夜はじめてわかったからだった。
冒頭部(原文より)
ある冬の夜、私は旧友の村上と一しょに、銀座通りを歩いていた。 「この間千枝子から手紙が来たっけ。君にもよろしくと云う事だった。」 村上はふと思い出したように、今は佐世保に住んでいる妹の消息を話題にした。 「千枝子さんも健在だろうね。」 「ああ、この頃はずっと達者のようだ。あいつも東京にいる時分は、随分神経衰弱もひどかったのだが、――あの時分は君も知っているね。」
「妙な話」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
私はカッフェの外へ出ると、思わず長い息を吐いた。それはちょうど三年以前、千枝子が二度までも私と、中央停車場に落ち合うべき密会の約を破った上、永久に貞淑な妻でありたいと云う、簡単な手紙をよこした訳が、今夜始めてわかったからであった。………… (大正九年十二月)
「妙な話」芥川龍之介(青空文庫)
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