赤いろうそくと人魚(小川未明)のあらすじ・登場人物
北の海の人魚の母と子
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 7,107字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
小川未明が1921年(大正10)に『東京朝日新聞』へ発表した童話。日本のアンデルセンとも呼ばれた未明の代表作の一つとして知られる。北の海に住む人魚の母が、生まれてくる子を陸の人間のもとで育てたいと願い、海辺の神社の下に子を産み落とす。拾われた娘が絵を描いたろうそくは、やがて町の評判になる。叙情的な文章で、北国の海辺の空気とともに語られる。
あらすじ
北の青い海に棲む身重の人魚は、人間は情け深くやさしいと聞き、せめて我が子だけはにぎやかで明るい人間の町で育ててほしいと願い、海岸の神社の石段に子を産み落とす。子は、山の下でろうそくを商う年老いた夫婦に拾われ、大切に育てられた。胴から下は魚の姿だが美しく心やさしい娘に育ち、白いろうそくに魚や貝の絵を描くと、それは不思議な力を帯び、この山のお宮にあげたろうそくの燃えさしを持てば海で災難に遭わぬという評判が立って、店は栄えた。ところがある日、南の国から来た香具師が、珍しい人魚を大金で売れと持ちかける。はじめは断った夫婦も、人魚は不吉だという言葉と金に心を奪われ、ついに娘を売る約束をしてしまう。泣いて許しを乞う娘の願いは聞き入れられず、娘は赤く塗ったろうそくを数本残して連れ去られる。その夜、赤いろうそくを買いに来た、髪を濡らした色白の女が去ったのち、海は大暴風雨となり、沖にいた娘の乗る船は助かるまいと夫婦は恐れる。以後、赤いろうそくが灯る夜は必ず嵐となり、あらたかであった神は町の鬼門と化して、ふもとの町はやがて滅んでしまった。
登場人物
- 人魚の娘 北の海の人魚が人間の町を願って産み落とした子。魚や貝の絵を描くろうそくで店を栄えさせるが、香具師に売られる
- 人魚の母 我が子の幸福を願い、陸に子を産み落として海へ帰る
- おじいさん・おばあさん 山の下でろうそくを商う老夫婦。娘を拾って育てるが、金と迷信に心を奪われ娘を売ってしまう
- 香具師 南の国から来た見世物師。人魚を珍しい見世物として買い取ろうとする
冒頭部(原文より)
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。 北方の海の色は、青うございました。あるとき、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色をながめながら休んでいました。 雲間からもれた月の光がさびしく、波の上を照らしていました。どちらを見ても限りない、ものすごい波が、うねうねと動いているのであります。 なんという、さびしい景色だろうと、人魚は思いました。自分たちは、人間とあまり姿は変わっていない。魚や、また底深い海の中に棲んでいる、気の荒い、いろいろな獣物などとくらべたら、どれほど人間のほうに、心も姿も似ているかしれない。それだのに、自分たちは、やはり魚や、獣物などといっしょに、冷たい、暗い、気の滅入りそうな海の中に暮らさなければならないというのは、どうしたことだろうと思いました。
「赤いろうそくと人魚」小川未明(青空文庫)
末尾部(原文より)
真っ暗な、星もみえない、雨の降る晩に、波の上から、赤いろうそくの灯が、漂って、だんだん高く登って、いつしか山の上のお宮をさして、ちらちらと動いてゆくのを見たものがあります。 幾年もたたずして、そのふもとの町はほろびて、滅くなってしまいました。
「赤いろうそくと人魚」小川未明(青空文庫)
名文
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。
思い込みをひと言で覆して始まる童話の書き出し。北の海の人魚が人間に託した娘の悲しみを描く、日本創作童話の名作。
幾年もたたずして、そのふもとの町はほろびて、滅くなってしまいました。
人魚の娘を売り飛ばした町に訪れる結末。因果を淡々と告げる一行が、静かな怖さとともに物語を閉じる。
原文を読む
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