眉かくしの霊(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
奈良井の宿に立つ美しい霊
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 26,284字
- 読了目安
- 約53分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
この作品について
泉鏡花が1924年(大正13年)、雑誌「苦楽」に発表した後期の代表作。木曾街道の古い宿場・奈良井の旅館を舞台に、旅の男・境が、宿の料理番から語り聞かされる怪異と、みずからが遭遇する幻とを、鏡花独特の絢爛な文体でつづる。近くの桔梗ヶ池に棲むという眉を落とした美しい奥様の霊、そして柳橋の芸妓お艶の面影――二つ巴の紋の提灯とともに、宿の夜にほのかに立ち現れる。幻想と怪奇、妖しい美が溶け合う鏡花怪談の名品である。
あらすじ
木曾街道の宿場・奈良井の古い旅館に泊まった境という男は、宿の料理番から、この土地にまつわる不思議な話を聞かされる。近くの山王社の奥の桔梗ヶ池には、眉を落とした(人妻の印の)美しい奥様の霊が棲むといい、料理番自身も一度その姿を目にして肝を潰したという。話はやがて、半月ほど前にこの宿に一人で泊まった、柳橋の芸妓お艶のことに移っていく。お艶は、妻がありながら深い仲になった画師の「いろ(情婦)」だった。その画師は、妻と別れきれぬまま木曾の友人(学士先生)の家に逃げ込み、そこで学士の若妻との思わぬ姦通事件を起こしていた。事の次第を知ったお艶は、権柄ずくの姑・代官婆に一泡吹かせようと、歯を染め眉を剃り落として人妻さながらに装い、夜ふけ、雪の奈良井川のほとりを代官婆の家へと向かう。だが、川の岩に足をかけたその姿を、桔梗ヶ池の妖怪が水を渡るものと思い込んだ猟師・石松に鉄砲で撃たれ、お艶ははかなく落命してしまう。――その眉を隠した美しい霊が、二つ巴の紋の提灯とともに、いまも宿の夜に立ち現れる。「似合いますか」と、剃ったばかりの眉のあとを見せながら。幻想と怪奇と妖艶な美が溶け合う、鏡花の怪談の名品である。
登場人物
- 境 奈良井の旅館に泊まる旅の男。料理番の怪談を聞き、みずからも幻を見る
- お艶(蓑吉姉さん) 柳橋の芸妓。画師の情婦。眉を隠して装い代官婆の家へ向かう途中、猟師に撃たれて死ぬ
- 料理番 宿の板前。桔梗ヶ池の霊やお艶の最期を境に語り聞かせる
- 石松 土地の猟師。お艶を桔梗ヶ池の妖怪と見誤って撃ち殺す
冒頭部(原文より)
木曾街道、奈良井の駅は、中央線起点、飯田町より一五八哩二、海抜三二〇〇尺、と言い出すより、膝栗毛を思う方が手っ取り早く行旅の情を催させる。
「眉かくしの霊」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
電燈の球が巴になって、黒くふわりと浮くと、炬燵の上に提灯がぼうと掛かった。 「似合いますか。」 座敷は一面の水に見えて、雪の気はいが、白い桔梗の汀に咲いたように畳に乱れ敷いた。
「眉かくしの霊」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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