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鏡地獄(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

鏡の魔境に沈んでいく男

  • 怪奇
  • 幻想

江戸川乱歩 1926年(昭和元年)10月 「大衆文芸」

文字数
14,074字
読了目安
約28分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

江戸川乱歩が1926年(大正15年)、「大衆文芸」に発表した短編小説。ある夜、Kという男が語り出す、レンズと鏡に取り憑かれた一人の男の物語。子供のころからガラス玉やレンズ、鏡のふしぎな世界に魅せられて育った男は、長じてその偏執をつのらせ、ついにあらゆる鏡に囲まれた実験室にこもって、光と像の魔境に沈んでいく。そして彼が作り上げた「球体の鏡」の内部に入ったとき――。乱歩の怪奇幻想の資質が横溢する、めくるめく戦慄の一編である。

あらすじ

怖い話、珍しい話を語り合う集まりで、Kという友だちが最後に語り出したのは、こんな物語だった。――私には一人の不幸な友だちがいる。彼は子供のころから、ガラス玉やレンズ、鏡といったものに、異常なまでに心を奪われて育った。切支丹の邪宗に帰依した先祖の遺した古い望遠鏡やギヤマンの器物を玩具にするうち、彼の内には、光と像のふしぎな世界への尽きせぬ偏執が芽生えていく。長じて莫大な財産を手にした彼は、その情熱をいよいよつのらせ、無数のレンズと鏡に囲まれた実験室を築き、凹面鏡、凸面鏡、万華鏡の魔境へと際限なく沈み込んでいった。そしてついに彼は、内側をすべて鏡で覆った巨大な球体を作り上げ、その中へと入り込む。翌朝、球体の中から現れた彼は、すでに正気を失い、狂ったまま笑い続けていた。球体の中で何が起きたのかは分からない。Kは鏡の中に人外の「小宇宙」が映ったのではないかと想像するが、友はその後、正気に戻らぬまま亡くなり、真相は確かめられなかった。レンズと鏡への偏執がもたらす戦慄を、乱歩がめくるめく幻想の筆で描いた怪奇短編の名品である。

登場人物

冒頭部(原文より)

「珍らしい話とおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」  ある時、五、六人の者が、怖い話や、珍奇な話を、次々と語り合っていた時、友だちのKは最後にこんなふうにはじめた。ほんとうにあったことか、Kの作り話なのか、その後、尋ねてみたこともないので、私にはわからぬけれど、いろいろ不思議な物語を聞かされたあとだったのと、ちょうどその日の天候が春の終りに近い頃の、いやにドンヨリと曇った日で、空気が、まるで深い水の底のように重おもしく淀んで、話すものも、聞くものも、なんとなく気ちがいめいた気分になっていたからでもあったのか、その話は、異様に私の心をうったのである。

「鏡地獄」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

 彼はその後、狂ったままこの世を去ってしまいましたので、事の真相を確かむべきよすがとてもありませんが、でも、少なくとも私だけは、彼は鏡の玉の内部を冒したばっかりに、ついにその身を亡ぼしたのだという想像を、今に至るまでも捨て兼ねているのであります。

「鏡地獄」江戸川乱歩(青空文庫)

名文

考えてみますと、彼はそんな時分から、物の姿の映る物、たとえばガラスとか、レンズとか、鏡とかいうものに、不思議な嗜好を持っていたようです。

江戸川乱歩『鏡地獄』で、語り手が友人の「彼」の少年時代を回想する一節。鏡やレンズへの偏愛という、物語を貫く嗜好が示される。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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