多神教(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
山中の社に、媛神があらわれる
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 17,787字
- 読了目安
- 約36分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岐阜県
- 愛知県
この作品について
美濃と三河の国境、山中の社の奥の院を舞台にした泉鏡花の戯曲。神楽の稽古、丑の刻参りの女、天狗の丁々坊、そして姿を現す媛神——この世とあの世の境が溶けた山中の一夜が、絢爛たることばで立ち上がる。鏡花戯曲の代表作の一つで、後年たびたび上演されてきた。
あらすじ
美濃・三河の国境、山中の社の奥の院。明後日の祭礼にそなえて、村人たちがおかめや般若の面をつけ、二十五座の神楽を稽古している。素朴な山家の人々が面をはずして雑談を交わすところから、この一幕は始まる。やがて夜が更け、丑の刻参りにやってきたのが、ある男の妾・お沢である。藁人形と釘を手に、女の一念で神木に呪いを打ちつけようとする。そこへ現れるのが天狗の丁々坊。熊手を手に人を戯れ、藁人形も釘も獣皮もことごとく掻き浚ってしまう。巫女や神職、道成寺の白拍子に扮した俳優、一つ目小僧の童男童女といった者たちが入り乱れ、山中の一夜は現実と幻の境を失ってゆく。そしてついに、社の奥から媛神が姿を現した。二十歳あまりに見えるその神は、鬢に真白き手をやり、矢を黒髪にさして、女性のもっとも優しくなよやかな容儀で立つ。お沢の一念を咎めるでもなく、媛神は静かに諭した。「私の傍においでだと、一つ目のおばけに成ります、可恐い、可恐い、……それに第一、こんな事、二度とはいけません。早く帰って、そくさいにおくらし」。蘆毛の馬にお沢を乗せ、巫女が手綱をとり、丁々坊が熊手をあつかう。大空に笙と篳篥の幽かな楽が響き、奥殿に再び雪が降るなかで幕が下りる。
登場人物
- 媛神 山中の社にあらわれる女神
- お沢 丑の刻参りに来た、ある男の妾
- 丁々坊 熊手を手にした天狗
- 巫女・禰宜・神楽の村人たち 山中の社の人々
冒頭部(原文より)
場所 美濃、三河の国境。山中の社――奥の院。 禰宜 (略装にて)いや、これこれ(中啓を挙げて、二十五座の一連に呼掛く)大分日もかげって参った。いずれも一休みさっしゃるが可いぞ。
「多神教」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
媛神 (廻廊に立つ)――私の傍においでだと、一つ目のおばけに成ります、可恐い、可恐い、……それに第一、こんな事、二度とはいけません。早く帰って、そくさいにおくらし。――駒に乗るのに坐っていないで、遠慮のう。 お沢 (涙ぐみつつ)お姫様。 ――幕――
「多神教」泉鏡花(青空文庫)
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