パノラマ島綺譚(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
絢爛怪奇な人工楽園の悪夢
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 78,945字
- 読了目安
- 約2時間38分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1926年(大正15年)から翌年にかけて雑誌「新青年」に連載した長編。うだつの上がらぬ文学青年・人見廣介は、自分と瓜二つの富豪・菰田源三郎が急死したのを機に、その死を装った蘇りを演じて莫大な遺産に成り代わる。そして手に入れた財力にものを言わせ、沖の孤島にみずからの夢想する絢爛怪奇な理想郷「パノラマ島」を築きあげていく。異常な美への執着と、それを支える罪の露見への恐怖が、乱歩特有の妖しくも壮麗なイメージのうちに描かれる。耽美と怪奇、そして探偵小説的興趣が渾然と溶け合った、乱歩ロマンの代表作である。
あらすじ
貧しく世に容れられぬ文学青年・人見廣介は、学生時代の同窓で、大富豪の跡取りである菰田源三郎が自分と瓜二つであることを思い出す。その源三郎が病の発作で急死したと知るや、廣介は大胆な計画を実行に移す。いったん自分が死んだと見せかけて姿を消し、埋葬された源三郎の墓をあばいて、「仮死からの蘇り」を装い、菰田家の当主に成りすますのだ。まんまと富豪に成り代わった廣介は、夫の変わりようをいぶかる妻・千代子の目を欺きながら、有り余る財産を注ぎ込んで、かねてよりの夢を実現しようとする。それは、沖合の孤島に、この世のものとは思えぬ絢爛怪奇な人工の理想郷——「パノラマ島」を造り上げることだった。海底のトンネル、花々に埋もれた丘、裸女の群れる湯の池、天と見まがう大伽藍。だが、その狂気じみた楽園の陰で、成りすましの秘密がほころびはじめる。真相を追う探偵・北見小五郎が迫るなか、追いつめられた廣介は、自ら造ったパノラマ国の空へ巨大な花火を打ち上げ、その光の中で、みずからの体を粉微塵に砕いて果てる——。彼の血肉は雨となって、彼が夢みた楽園のすみずみへ降りそそいだ。美への狂気と犯罪が交錯する、乱歩幻想の頂点をなす長編である。
登場人物
- 人見廣介 富豪に成りすます貧しい文学青年
- 菰田源三郎 廣介と瓜二つの若き富豪
- 千代子 源三郎の妻
- 北見小五郎 真相を追う探偵
冒頭部(原文より)
同じM県に住んでいる人でも、多くは気づかないでいるかも知れません。I湾が太平洋へ出ようとする、S郡の南端に、外の島々から飛び離れて、丁度緑色の饅頭をふせた様な、直径二里足らずの小島が浮んでいるのです。今では無人島にも等しく、附近の漁師共が時々気まぐれに上陸して見る位で、殆ど顧る者もありません。
「パノラマ島綺譚」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
北見小五郎は、その様な血腥い光景の中で、不思議に騒がぬ裸女達をいぶかりながら、彼も又そのまま動くでもなく、池の畔にじっと頭をもたせて、ぼんやりと、彼の胸の辺に漂っている、生々しい手首の花を開いた真赤な切口に見入りました。 か様にして、人見廣介の五体は、花火と共に、粉微塵にくだけ、彼の創造したパノラマ国の、各々の景色の隅々までも、血液と肉塊の雨となって、降りそそいだのでありました。
「パノラマ島綺譚」江戸川乱歩(青空文庫)
名文
同じM県に住んでいる人でも、多くは気づかないでいるかも知れません。
江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』の書き出し。M県の海に浮かぶ無人島に、やがて一人の男が築く奇想の世界が語られていく。
原文を読む
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