雪霊記事(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
吹雪の越前路に現れる魔
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 6,533字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 福井県
この作品について
末尾に1921年(大正10年)4月と記された短編で、続編『雪霊続記』と対になる。越前の武生を、雪の晩に行き悩む語り手が、昔世話になった旅館の娘お米さんを思いながら吹雪に呑まれていく。武生の水の話、脚気を病んでいた若い日の身の上などが挟まれ、雪の描写が圧巻。恩人を恋う思いと雪の魔が重なる、前半の導入にあたる作品である。作中には、今日では不適切とされる表現があるが、当時のまま残されている。
あらすじ
越前の武生、雪に埋もれた旅宿を出て二町ばかり進んだ語り手は、吹雪の中で、ある思いにとらわれる。語り手はかつて脚気の衝心を起こしかけて、東京から故郷へ帰る途中にこの武生で倒れ、旅館・蔦屋のお米さんに手厚く世話をしてもらった恩がある。お米さんは国中に評判の美人で、武生の水のように清らかだった。後に礼を言いに再び訪ねたとき、蔦屋は若主人が相場で落ちぶれており、お米さんは別の場所に一人で暮らしていた。語り手はその住まいを訪ねる決心をして雪の夜を進むが、雪難之碑の前で吹雪に巻かれ、倒れて身動きもできなくなる。「魔が妨げる、天狗の業だ――あの、尼さんか、怪しい隠士か」と、雪にむせびながら叫ぶ。
登場人物
- 私 脚気を病んだ過去を持つ語り手。お米さんの恩を忘れない
- お米さん 武生の旅館・蔦屋の美しい娘。語り手の大恩人
- 老尼 お米さんの住まいに関わる尼
- 怪しい隠士 語り手が出会う山伏のような老人
冒頭部(原文より)
「このくらいな事が……何の……小児のうち歌留多を取りに行ったと思えば――」 越前の府、武生の、侘しい旅宿の、雪に埋れた軒を離れて、二町ばかりも進んだ時、吹雪に行悩みながら、私は――そう思いました。 思いつつ推切って行くのであります。 私はここから四十里余り隔たった、おなじ雪深い国に生れたので、こうした夜道を、十町や十五町歩行くのは何でもないと思ったのであります。
「雪霊記事」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
――雪難之碑。――峰の尖ったような、そこの大木の杉の梢を、睫毛にのせて倒れました。私は雪に埋れて行く……身動きも出来ません。くいしばっても、閉じても、目口に浸む粉雪を、しかし紫陽花の青い花片を吸うように思いました。 ――「菖蒲が咲きます。」―― 蛍が飛ぶ。 私はお米さんの、清く暖き膚を思いながら、雪にむせんで叫びました。 「魔が妨げる、天狗の業だ――あの、尼さんか、怪しい隠士か。」
「雪霊記事」泉鏡花(青空文庫)
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