港に着いた黒んぼ(小川未明)のあらすじ・登場人物
白鳥のたくさん飛ぶ、遠い島の話
- 幻想
- 文字数
- 6,903字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
港町で笛を吹く盲目の弟と、その笛に合わせて踊る美しい姉。ある日、船で港に着いた異国の船乗りが姉に語った「白鳥の島」の話が、二人の運命を分かってゆく。小川未明が異国への憧れと肉親の情を重ねて描いた童話。発表当時の題名をそのまま用いている。
あらすじ
港町の道ばたで、十ばかりの男の子が笛を吹いていた。枯葉を鳴らす秋風のように哀れかと思えば、森の小鳥の声のようにかわいらしい音をたてる。人々が寄ってきて見れば、その子は弱々しく、しかも盲目だった。そのかたわらでは、十六、七の美しい姉が、水色の着物ではだしのまま、花弁の舞うように軽やかに踊りながら低い声で唄をうたっている。その唄を聞いていると、心は遠いかなたの空を馳せ、さびしい風の吹く森林をさまようような頼りなさと悲しさを覚えるのだった。二人がどこから来てどこへ帰るのか、誰も知らない。ある日、遠い国から船で着いた異国の船乗りが姉に声をかけ、遠い島の話をした。銀色の海を渡り、雪の白く光る高い山々を越えた先にあるその島には白鳥がたくさん棲んでいて、夕暮れの空に舞うさまはみごとなのだという。やがて弟の姿が消える。姉は港じゅうを探し、あの船乗りに問いただすが、弟は白鳥の島へ行ってしまったらしい。「もう一人、この世の中には、自分というものがあって、その自分は、わたしよりも、もっとしんせつな、もっと善良な自分なのであろう。その自分が、弟を連れていってしまったのだ」——姉は長い髪を両手でもみながら、胸が張り裂けそうになって後悔する。その島へ行ってみたいと言う姉に、船乗りは港のほうを指さして、それは容易に行けるところではないと答えた。夏の日は暮れかかり、空は昨日のように真っ赤に燃えていた。
登場人物
- 姉 港で唄をうたい踊る、十六、七の娘
- 弟 盲目で笛を吹く少年
- 異国の船乗り 白鳥の島の話を語る
冒頭部(原文より)
やっと、十ばかりになったかと思われるほどの、男の子が笛を吹いています。その笛は、ちょうど秋風が、枯れた木の葉を鳴らすように、哀れな音をたてるかと思うと、春のうららかな日に、緑の色の美しい、森の中でなく小鳥の声のように、かわいらしい音をたてていました。
「港に着いた黒んぼ」小川未明(青空文庫)
末尾部(原文より)
「その島というのは、どこなんですか。わたしは、どうかしていってみたい。」と、姉はいいました。 黒んぼは、このとき、港の方を指さしながら、 「ずっと、幾千里となく遠いところに、銀色の海があります。それを渡って陸に上がり、雪の白く光った、高い山々が重なっている、その山を越えてゆくので、それは、容易にゆけるところでない。」と答えました。 このとき、夏の日は暮れかかって、海の上が彩られ、空は、昨日のように真っ赤に燃えて見られました。
「港に着いた黒んぼ」小川未明(青空文庫)
原文を読む
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