アグニの神(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
上海を舞台にした少女救出譚
- 幻想
- 冒険
- 文字数
- 8,020字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
芥川龍之介が1921年(大正10年)、児童雑誌「赤い鳥」に発表した少年向けの物語。舞台は上海。人身売買同然にさらわれた日本人の少女・妙子は、悪辣な印度人の老婆に囚われ、火の神アグニを呼び降ろす口寄せの巫女として利用されていた。少女を救おうと乗り込んだ日本人の遠藤の運命やいかに。異国情緒とスリルに満ちた、芥川には珍しい冒険譚である。
あらすじ
上海の薄暗い家の二階に、人相の悪い印度人の老婆が住んでいた。老婆は占い師を装いながら、その正体は妖術を使う恐ろしい女で、香港で人買いにさらわれた日本人の少女・妙子を、火の神アグニを呼び降ろす口寄せの巫女として意のままに操っていた。妙子の身を案じる日本人の遠藤は、彼女を取り戻そうと計略をめぐらす。妙子に、アグニの神が乗り移ったふりをして老婆に嘘の託宣を告げさせ、その隙に逃げ出そうというのだ。ところが、いざその夜になると、妙子は本当に神がかりの状態に陥ってしまい、遠藤の計略は崩れかける。絶体絶命かと思われたそのとき——気づけば老婆は短刀に貫かれて事切れ、妙子は無事に救い出されていた。「あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です」。遠藤は妙子を抱えたまま、おごそかにそうつぶやくのだった。異国を舞台に、少女の危難と不思議な神の力を描いた、芥川の異色の冒険物語である。
登場人物
- 妙子 さらわれ、口寄せの巫女にされる日本人の少女
- 遠藤 妙子を救おうとする日本人
- 印度人の婆さん 妙子を操る妖術使い
冒頭部(原文より)
支那の上海の或町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加人と何か頻に話し合っていました。 「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、――」 亜米利加人はそう言いながら、新しい巻煙草へ火をつけました。
「アグニの神」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
遠藤は婆さんの屍骸から、妙子の顔へ眼をやりました。今夜の計略が失敗したことが、――しかしその為に婆さんも死ねば、妙子も無事に取り返せたことが、――運命の力の不思議なことが、やっと遠藤にもわかったのは、この瞬間だったのです。 「私が殺したのじゃありません。あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です」 遠藤は妙子を抱えたまま、おごそかにこう囁きました。
「アグニの神」芥川龍之介(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。