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印度更紗(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

鸚鵡が運ぶ異国の物語

  • 冒険
  • 幻想

泉鏡花 1912年(大正元年)11月 「中央公論」

文字数
9,633字
読了目安
約19分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

1912年(大正元年)11月、「中央公論」に掲載。暖炉の前で、博士の若い夫人が、籠の中の白い鸚鵡に、読んだばかりの物語を語って聞かせる。舞台はインド洋の港町、福州の商人や和蘭の貴公子らが集う宴席。鸚鵡が口にする、誰にも意味の分からない言葉の謎を、日本から売られてきた下僕が解く。

あらすじ

博士が旅行で留守の夜、若い夫人は暖炉の前で、籠の白い鸚鵡に「お話を聞かせてあげる」と語りはじめる。舞台は、インドの港町。福州の大商人の屋敷の宴に、和蘭の富豪父子と島の酋長が招かれている。和蘭の貴公子から主人の娘に贈られた緋色の鸚鵡は、どこの国にもない不思議な言葉を歌っていた。娘は、日本から買われてきた下僕を呼ぶようすすめる。下僕は筑前の水主・孫一で、七年前、福岡藩の米船が遭難して漂流し、魔の島に着き、奴隷として売り歩かれた身であった。鸚鵡が歌う言葉は、孫一が船の中の夢で見た女神から掛けられた「港で待つよ」という一言だった。孫一はその場に泣き伏す。一座は女神の霊威に打たれて跪き、孫一は金銀造りの脇差を餞別に鸚鵡を肩にのせて、無事に筑前へ帰った。物語を終えた夫人は、現在の自分のために苦しんでいる者があるなら、お前は何と言う、と鸚鵡に迫り、鸚鵡の胸を押さえて、小指を噛まれる。血に染まった白い鸚鵡は、「港で待つよ」と朗らかに歌った。夫人は柄を帯に収め、微笑んで頷く。

登場人物

冒頭部(原文より)

 博士が旅行をした後に、交際ぎらひで、籠勝ちな、此の夫人が留守した家は、まだ宵の間も、実際蔦の中に所在の知るゝ山家の如き、窓明。 広い住居の近所も遠し。 久しぶりで、恁うして火を置かせたまゝ、気に入りの小間使さへ遠ざけて、ハタと扉を閉した音が、谺するまで響いたのであつた。 夫人は、さて唯一人、壁に寄せた塗棚に据置いた、籠の中なる、雪衣の鸚鵡と、差向ひに居るのである。「御機嫌よう、ほゝゝ、」 と莟を含んだ趣して、鸚鵡の雪に照添ふ唇…… 籠は上に、棚の丈稍高ければ、打仰ぐやうにした、眉の優しさ。鬢の毛はひた/\と、羽織の襟に着きながら、肩も頸も細かつた。

「印度更紗」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 雪なす鸚鵡は、見る/\全身、美しい血に染つたが、目を眠るばかり恍惚と成つて、朗かに歌つたのである。 ――港で待つよ―― 時に立窘みつゝ、白鞘に思はず手を掛けて、以ての外かな、怪異なるものどもの挙動を屹と視た夫人が、忘れたやうに、柄をしなやかに袖に捲いて、するりと帯に落して、片手におくれ毛を払ひもあへず……頷いて……莞爾した。

「印度更紗」泉鏡花(青空文庫)

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