素戔嗚尊(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
追われた醜い剛力の若者
- 幻想
- 冒険
- 文字数
- 42,829字
- 読了目安
- 約1時間26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 島根県
この作品について
『古事記』『日本書紀』に登場する素戔嗚尊を、神話ではなく、荒々しい一人の若者の物語として書いた長めの連載小説。高天原で疎まれる孤独と恋、追放と放浪、そして八俣の大蛇に出会うまでが描かれる。大蛇退治のあとの話は、『老いたる素戔嗚尊』が受け持つ。
あらすじ
春の高天原。容貌は醜いが、並ぶ者のない膂力をもつ若者素戔嗚は、力競べで他の若者たちの嫉妬を買い、巌石を担ぎ合った猪首の若者が死んでからは、孤立を深める。思兼尊の姪にあたる快活な娘に想いを寄せた彼は、牛飼いの若者に琅の勾玉を託して気持ちを伝えようとするが、若者は美貌の若者に誘われ、勾玉をすり替えていた。真実を知った素戔嗚は怒り狂い、乱闘と火事のなかで部落の者たちに捕らえられる。思兼尊らのとりなしで死刑は免れるが、髭を抜かれ、爪を剥がされて追放される。山中の洞穴で大気都姫と十六人の女たちに迎えられ、一年余り放縦に暮らすが、黒犬への嫉妬から大気都姫を誤って刺し、逃げ出す。湖畔の雷雨のあと、自然の声を取り戻した彼は、七年の放浪ののち、出雲の簸の川で泣いている櫛名田姫を見つけ、高志の大蛇と戦う決意をする。
登場人物
- 素戔嗚尊 容貌は醜いが、高天原一の剛力の若者
- 思兼尊 部落第一の学者で詩人。素戔嗚に好意をもつ年長者
- 牛飼いの若者 素戔嗚を崇拝するが、玉をすり替える
- 美貌の若者 素戔嗚の敵の一人。精巧な勾玉や釧を身につけている
- 大気都姫 山中の洞穴の主。十六人の女たちの長
- 櫛名田姫 足名椎の娘。高志の大蛇の犠にされようとしている
冒頭部(原文より)
高天原の国も春になった。 今は四方の山々を見渡しても、雪の残っている峰は一つもなかった。牛馬の遊んでいる草原は一面に仄かな緑をなすって、その裾を流れて行く天の安河の水の光も、いつか何となく人懐しい暖みを湛えているようであった。ましてその河下にある部落には、もう燕も帰って来れば、女たちが瓶を頭に載せて、水を汲みに行く噴き井の椿も、とうに点々と白い花を濡れ石の上に落していた。
「素戔嗚尊」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「そうです。とうとう来たようです。神々の謎の解ける時が。」 彼は対岸に眼を配りながら、おもむろに高麗剣の柄へ手をかけた。するとその言葉がまだ終らない内に、驟雨の襲いかかるような音が、対岸の松林を震わせながら、その上に疎な星を撒いた、山々の空へ上り出した。
「素戔嗚尊」芥川龍之介(青空文庫)
原文を読む
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