人外魔境 天母峰(小栗虫太郎)のあらすじ・登場人物
動かぬ雲に覆われた氷嶺の楽土
- 冒険
- 幻想
- 文字数
- 21,253字
- 読了目安
- 約43分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
小栗虫太郎が1939年(昭和14年)から『新青年』に連載した秘境冒険小説シリーズ「人外魔境」の一編。本編から、世界的な鳥獣採集人で西南奥支那の秘境に通じた理学士・折竹孫七が登場し、六年ぶりに帰国した彼の体験談を、魔境の材料に困っていた作家の「私」が書き起こす形をとる。舞台は青海省南部の巴顔喀喇山脈にそびえ、決して晴れることのない大雲塊に覆われた未踏の大群峰「天母生上の雲湖」。米国地理学協会の探検隊が三度敗退した魔境へ、謎の古文書を解読したという梵語学者と、白痴の女ケティがわずか二人で挑もうとする。仏典の楽土伝説と前世界の生物、氷河の奇観を織りまぜた、奇想と衒学に満ちた一編である。
あらすじ
折竹孫七は、西雲南の察緬で、米国地理学協会のダネック隊が挑む未踏の大氷嶺「天母生上の雲湖」の探検を支えていた。三度目の攻撃は失敗し、折竹の腹心の飛行士・木戸は主峰の大雲塊の渦に巻き込まれ、「見た」という一言を残して消える。木戸は墜落の前に、近くの瀞を英国の艀が行き来する新しい援蒋ルートを見つけていた。折竹は魔境の奥の水源をふさいでこのルートを断とうと考えるが、探検は中止と決まる。そこへチェコ人の梵語学者ケルミッシュが現れ、魔境から流れ着いた古文書を解読したと言って、ダネック隊しか知らないはずの峰の姿を言い当てる。連れていたのは、金髪碧眼に蒙古人の顔をした白痴の女ケティで、意味はわからないながら魔境の文字を音読できるのだった。折竹の説得で四人は再び出発し、麓のラマ寺で活仏がケティを「生き観音」と拝んでから、醜い彼女が男たちの目に神々しく映り始める。紅蓮峰の大氷河の口で、人を寄せつけない大烈風に阻まれた一行は、折竹の案で氷河の内部を掘り進み、氷の中に眠る前世界の大懶獣を見ながら烈風の先へ抜ける。だがその夜から、ケティとケルミッシュは草の言葉を聞くようになる。帰ろうとケルミッシュに組みついたダネックを雪崩がのみ込み、ケルミッシュとケティは雪崩でできた雪の橋を渡って魔境の奥へ消えた。重傷の折竹だけが置き手紙を拾い、援蒋ルートを断つ望みを果たせぬまま、人夫に背負われて生還した。
登場人物
- 折竹孫七 世界的な鳥獣採集人で理学士。探検の陰で西南奥支那の秘密測量も担う
- ダネック 米国地理学協会の探検隊長。チェコ系の氷河研究家で、功名心と猜疑心が強い
- ケルミッシュ チェコ人の梵語学者。魔境から流れ着いた古文書を解読し、理想郷を求める
- ケティ 金髪碧眼に蒙古人の顔立ちをもつ白痴の娘。魔境の文字を音読できる
- 木戸 折竹の腹心の日系二世の飛行士。偵察飛行中に主峰の雲に吸い込まれる
冒頭部(原文より)
神踞す「大聖氷」 わが折竹孫七の六年ぶりの帰朝は、そろそろ、魔境、未踏地の材料も尽きかけて心細くなっていた私にとり、じつに天来の助け舟のようなものであった。
「人外魔境 天母峰」小栗虫太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
君よ、悠久うごかぬ雲に覆われた魔境「天母生上の雲湖」とともに、時々、僕とケティのことも思いだしてくれ給え。なおダネックは雪崩のしたにいるよ。 雪橋をわたるまえとり急ぎ ケルミッシュより
「人外魔境 天母峰」小栗虫太郎(青空文庫)
原文を読む
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