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牛女(小川未明)のあらすじ・登場人物

雪の山に浮かぶ母の姿

  • 幻想
  • 家族

小川未明 1919年(大正8年)5月 「おとぎの世界」

文字数
4,915字
読了目安
約10分
表記
新字新仮名

この作品について

小川未明が1919年(大正8年)5月、童話雑誌「おとぎの世界」に発表した童話。雪深い北国を思わせる村を舞台に、口がきけず耳も聞こえないが、気立てのやさしい大女と、その一人息子を描く。村人から「牛女」と呼ばれた母は、力仕事を引き受けて子どもと二人で暮らしていたが、やがて重い病に倒れる。物語はそこから、冬ごとに国境の山の雪の上に浮かぶ黒い姿へと移っていく。季節の移ろいとともに現れては消える母の姿を、村人たちの語らいを通して静かに描き、子を思う母の情を伝説のような手触りで語った、未明らしい哀切な一編である。

あらすじ

ある村に、口がきけず耳も聞こえない、背の高い大女がいた。気立てがやさしく、一人息子をたいそうかわいがっていたので、村人は「牛女」と呼んだ。牛女は力仕事を引き受けて子どもと暮らしていたが、重い病にかかり、死んでも霊魂となって子の行く末を見守ろうと思いながら息を引き取る。残された子どもは、村人たちが代わる代わる育てることになった。

ある冬の日、子どもは国境の西の山の中腹に、雪の上に黒く浮き出た母の姿を見る。やがて村人もそれに気づき、冬が来るたびに現れ、春に雪が消えると見えなくなる牛女の姿を、子を思う母の心として語り合った。

大きくなった子は町の商家へ奉公に出たが、ある春、母の許しも得ずに店を飛び出し、南の国へ行ってしまう。その冬、西の山に牛女の姿は現れず、代わりに春先の夜、町の中をさびしげに歩く大女の姿が見られるようになる。牛女は暗い路地でさめざめと泣いているのを最後に姿を消し、以来、山にも現れなくなった。

南の国で働いて金持ちになった子は、故郷に帰って育ての恩人たちに礼をし、広いりんご畑を開く。しかし毎年、実が大きくなりかけると虫がついて落ちてしまう。母の霊に無断で故郷を出たことや、法事も営まなかったことに思い至った彼は、心をこめて母の法事を行う。その年の夏、どこからともなく大きなこうもりに率いられたこうもりの群れが現れ、畑の虫を食べ尽くした。村人たちは、牛女がこうもりになって子を守っているのだと語り合い、子は幸福な百姓となった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ある村に、脊の高い、大きな女がありました。あまり大きいので、くびを垂れて歩きました。その女は、おしでありました。性質は、いたってやさしく、涙もろくて、よく、一人の子供をかわいがりました。  女は、いつも黒いような着物をきていました。ただ子供と二人ぎりでありました。まだ年のいかない子供の手を引いて、道を歩いているのを、村の人はよく見たのであります。そして、大女でやさしいところから、だれがいったものか「牛女」と名づけたのであります。  村の子供らは、この女が通ると、「牛女」が通ったといって、珍しいものでも見るように、みんなして、後ろについていって、いろいろのことをいいはやしましたけれど、女はおしで、耳が聞こえませんから、黙って、いつものように下を向いて、のそりのそりと歩いてゆくようすが、いかにもかわいそうであったのであります。

「牛女」小川未明(青空文庫)

末尾部(原文より)

 また、つぎの、つぎの年も、夏になると、一ぴきの大きなこうもりが、多くのこうもりを率いてきて、りんご畑の上を毎晩のように飛びまわりました。そして、りんごには、おかげで悪い虫がつかずによく実りました。  こうして、それから四、五年の後には、牛女の子供は、この地方での幸福な身の上の百姓となったのであります。

「牛女」小川未明(青空文庫)

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