化鳥(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
人も鳥も隔てぬ少年の眼
- 幻想
- 家族
- 文字数
- 17,873字
- 読了目安
- 約36分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
泉鏡花が、母と二人で暮らす少年の声によって綴った短編小説。橋のたもとの小屋で橋銭を受け取る暮らしのなか、少年は雨の橋を渡る人々を鳥や獣に見立てて楽しんでいる。人間と動物をはっきり分ける大人の常識よりも、母から聞いた言葉や、自分の目に映る姿が、世界を知る手がかりになっている。「母様」への呼びかけや言葉の繰り返しが、話を聞く人を間近に感じさせ、身近な風景と空想とをつないでいく。幼い語りの親しみやすさの一方に、暮らしの寂しさや、他人とは異なるものの見方も織り込まれている。2012年には泉鏡花文学賞の第40回を記念し、中川学の絵による『絵本 化鳥』が制作された。その絵本は原文を抜粋・再構成したもので、原作では少年の声が重なっていく文章そのものを、より長く味わうことができる。
あらすじ
仮橋のたもとの番小屋で母と二人、橋を渡る人から橋銭を取って暮らす少年・廉は、人も鳥も獣も草木も、姿こそ違え皆同じものだと母から教えられて育った。雨の日、窓辺から橋を通る人々を蕈や鳥や獣に見立てて面白がる廉は、幼いころ猿に引っかかれて堀へ落ち、危うく溺れかけたところを「翼の生えたうつくしい姉さん」に助けられたのだと母から聞かされる。その正体を知りたい一心で鳥屋や林をたずね歩くが見つからず、日暮れの梅林でひとり心細さに震えていると、迎えに来た母にしっかりと抱きしめられる。そのとき廉は、翼の生えたうつくしい姉さんとは、他ならぬ母自身のことではないかとふと気づくのだった。
登場人物
- 廉 仮橋の番小屋で母と暮らす少年。人も鳥獣草木も皆同じものだと信じる本作の語り手
- 母様 廉と二人で橋銭を取って暮らす美しい女性。廉に不思議な考え方を教え込む
- 猿 堤防につながれた年経た猿。かつて猿廻しの老人に置き去られた過去を持つ
- 大野喜太郎(鮟鱇博士) 橋を渡る恰幅のよい紳士。廉にはその姿が鮟鱇のように見える
冒頭部(原文より)
愉快いな、愉快いな、お天気が悪くって外へ出て遊べなくっても可いや、笠を着て、蓑を着て、雨の降るなかをびしょびしょ濡れながら、橋の上を渡って行くのは猪だ。
「化鳥」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかしどうしてもどう見ても、母様にうつくしい五色の翼が生えちゃあいないから、またそうではなく、他にそんな人が居るのかも知れない、どうしても判然しないで疑われる。雨も晴れたり、ちょうど石原も辷るだろう。母様はああおっしゃるけれど、わざとあの猿にぶつかって、また川へ落ちてみようかしら。そうすりゃまた引上げて下さるだろう。見たいな! 羽の生えたうつくしい姉さん。だけれども、まあ、可い。母様がいらっしゃるから、母様がいらっしゃったから。
「化鳥」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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