狐(新美南吉)のあらすじ・登場人物
母ちゃんが狐になったら、どうする
- 家族
- 幻想
- 文字数
- 6,354字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
「晩に新しい下駄をおろすと狐がつく」——下駄屋で聞いた迷信が、幼い文六ちゃんの胸に消えない不安を残す。新美南吉が晩年に書いた童話で、狐は一匹も出てこない。母と子のやりとりだけで、これほど深い愛情を描いた作品は、南吉のなかでも屈指である。
あらすじ
月夜に七人の子供が歩いていた。そのなかに、樽屋の清さの子である文六ちゃんがいる。やせっぽちで色の白い、母親の大きな下駄をつっかけた甘えん坊の子だ。子どもたちは、文六ちゃんの母に頼まれて、本郷の下駄屋へ新しい下駄を買いに行った。ちょうど文六ちゃんが新しい下駄をはいたとき、腰の曲がったお婆さんが入ってきてこう言う。「やれやれ、どこの子だか知らんが、晩げに新しい下駄をおろすと狐がつくというだに」。子どもたちは「嘘だい」「迷信だ」と言い合うが、顔にはやはり心配の色が漂う。下駄屋の小母さんはマッチをする真似をして下駄の裏に触れ、「これでもう、狐も狸もつきゃしん」とまじないをしてくれた。それでも文六ちゃんの不安は消えない。その晩、床のなかで文六ちゃんは母に打ち明ける。もし自分が狐になってしまったら、どうするの、と。お母さんは静かに答えた。そのときは、母ちゃんも狐になってあげる。そして猟師が来たら、母ちゃんが囮になって噛みつかれ、しばられているあいだに、坊やとお父ちゃんは逃げるのだ、と。「いやだよ、母ちゃん、そんなこと。そいじゃ、母ちゃんがなしになってしまうじゃないか」「でも、そうするよりしようがないよ、母ちゃんはびっこをひきひきゆっくりゆくよ」——「いやだったら、いやだったら」と泣きじゃくって胸にしがみつく文六ちゃんの下に、お母さんは小さい枕をあてがってやった。
登場人物
- 文六ちゃん 新しい下駄をおろした甘えん坊の子
- お母さん 文六ちゃんの不安に答える
- 義則君 年上の子どもたちのまとめ役
冒頭部(原文より)
月夜に七人の子供が歩いておりました。 大きい子供も小さい子供もまじっておりました。 月は、上から照らしておりました。子供たちの影は短かく地べたにうつりました。 子供たちはじぶんじぶんの影を見て、ずいぶん大頭で、足が短いなあと思いました。
「狐」新美南吉(青空文庫)
末尾部(原文より)
「でもそうするよりしようがないよ、母ちゃんは、びっこをひきひきゆっくりゆっくり……」 「いやだったら、いやだったら、いやだったら!」 文六ちゃんはわめきたてながら、お母さんの胸にしがみつきました。涙がどっと流れて来ました。 お母さんも、ねまきのそででこっそり眼のふちをふきました、そして文六ちゃんがはねとばした、小さい枕を拾って、あたまの下にあてがってやりました。
「狐」新美南吉(青空文庫)
原文を読む
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