雁の童子(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
雁から来た天の子の物語
- 幻想
- 家族
- 文字数
- 8,068字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治の短編童話。流沙の泉のほとりで出会った巡礼の老人が、天から降りた「雁の童子」の物語を語る、入れ子の形で進む。図書カードでは、仏教の影響下で書かれた「西域童話」の一つとされる。童子の優しさと悲しさ、その出自が静かに明かされていく。
あらすじ
流沙の南の泉で食事をとっていた「私」は、同じように休みに来た巡礼の老人と、泉のうしろの小さな祠の話を始める。祠は「雁の童子」をまつったものだという。老人は語る。沙車に須利耶圭という人がいて、ある朝、鉄砲を持った従弟と野を歩くうち、従弟の撃った雁たちが火に包まれて落ち、天の人の姿に変わった。雁の老人は、ただ一人残った孫の童子を預かってくれと須利耶に頼んで燃え尽きる。須利耶はこの子を引き取って育てた。童子は人の悲しみに敏感で、母が魚を砕く姿や、母馬から離される仔馬を見て泣いた。十二歳で塾に入ったが、母の荒れた手を思い、帰って働きたいと言い出す。やがて沙車の町外れの砂の中から古い寺の壁画が見つかり、須利耶が童子を連れて見に行くと、そこに描かれた天童は童子によく似ていた。童子は父の腕の中で倒れ、「おじいさんがお迎いをよこしたのです」とつぶやく。老人の話はそこまでで、「私」は礼を述べ、二人は別れて行く。
登場人物
- 須利耶圭 沙車の人。天から降りた童子を引き取って育てる
- 雁の童子 天の眷属。須利耶の子として育てられる
- 巡礼の老人 泉のほとりで「私」に童子の話を語る
冒頭部(原文より)
流沙の南の、楊で囲まれた小さな泉で、私は、いった麦粉を水にといて、昼の食事をしておりました。 そのとき、一人の巡礼のおじいさんが、やっぱり食事のために、そこへやって来ました。私たちはだまって軽く礼をしました。 けれども、半日まるっきり人にも出会わないそんな旅でしたから、私は食事がすんでも、すぐに泉とその年老った巡礼とから、別れてしまいたくはありませんでした。
「雁の童子」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「尊いお物語をありがとうございました。まことにお互い、ちょっと沙漠のへりの泉で、お眼にかかって、ただ一時を、一緒に過ごしただけではございますが、これもかりそめのことではないと存じます。ほんの通りかかりの二人の旅人とは見えますが、実はお互がどんなものかもよくわからないのでございます。いずれはもろともに、善逝の示された光の道を進み、かの無上菩提に至ることでございます。それではお別れいたします。さようなら。」 老人は、黙って礼を返しました。何か云いたいようでしたが黙って俄かに向うを向き、今まで私の来た方の荒地にとぼとぼ歩き出しました。私もまた、丁度その反対の方の、さびしい石原を合掌したまま進みました。
「雁の童子」宮沢賢治(青空文庫)
名文
童子はやっと歩き出されました。そして、遥かに冷たい縞をつくる雲のこちらに、蘆がそよいで、やがて童子の姿が、小さく小さくなってしまわれました。俄かに空を羽音がして、雁の一列が通りました時、須利耶さまは窓からそれを見て、思わずどきっとなされました。
母に蘆笛をもらって帰っていく童子を見送る場面。小さくなる姿に雁の列が重なり、童子の不思議な素性をそっと響かせる。
原文を読む
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