税務署長の冒険(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
どぶろくを追って山の中
- 風刺
- 冒険
- 文字数
- 16,702字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
濁密(どぶろくの密造)の摘発に乗り出した税務署長が、村人にさんざん歓待されたあげく攫われ、山中の「イーハトヴ密造会社」に閉じ込められる——宮沢賢治が生前に発表しなかった、異色の長めの短編。悪口を言えば言うほど喜んで笑う村人たち、大まじめに近代設備を整えた密造工場、堀部安兵衛が引き合いに出される酒の効能。喜劇仕立てのなかに、農村と役所との呼吸のずれが可笑しみとして立ち上がってくる。
あらすじ
濁密防止講演会に招かれた税務署長は、小学校の講堂で大まじめに酒を讃え、密造の手口を一つずつ暴き立てる。味噌桶に仕込んで上に板を置く、廐の枯草に隠す、天井裏でこしらえて眼をまっ赤にして帰ってくる——耳の痛いはずの悪口に、村人たちは怒るどころか愉快そうに手を叩いて笑うばかりである。怒らせて赤くなる者を、脅して青くなる者を数え、村の密造の数を勘定しようという署長の目算は、ことごとく外れた。密告者が七人まじっていると最後の山をかけても、みんなはどっと吹き出す始末で、署長はぐるぐるして壇を下りる。……続く歓迎会では立派な膳が並び、たしかに税金の納まった透明な酒が座を回った。だが酔いが進むにつれて、署長は酒の匂いが変わったことに気づく。濁ってはいないが、この土地のどの酒屋のものでもない。名誉村長らに引き止められるのを振り切って自転車で逃げ出した署長とシラトリ属は、やがて村人たちの手で山中へ運ばれ、乳酸菌の培養からピペットまでそろえた近代的な「イーハトヴ密造会社」の工場に閉じ込められることになる。四日ののち、表が俄かにやかましくなった。
登場人物
- 税務署長 濁密の摘発に乗り出す太った男
- シラトリ属(白鳥属) 署長に随行する部下
- 名誉村長 署長を歓迎会に案内する村の顔役
- 村会議員 立派な屋敷で宴を張る有志の一人
冒頭部(原文より)
一、濁密防止講演会 イギリスの大学の試験では牛でさへ酒を呑ませると目方が増すと云ひます。又これは実に人間エネルギーの根元です。酒は圧縮せる液体のパンと云ふのは実に名言です。堀部安兵衛が高田の馬場で三十人の仇討ちさへ出来たのも実に酒の為にエネルギーが沢山あったからです。みなさん、国家のため世界のため大に酒を呑んで下さい。」
「税務署長の冒険」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
署長は名誉村長とならんで歩いてゐた。 「今日は何日だ。」署長はふっとうしろを向いてシラトリ属にきいた。 「五日です。」 「あゝもうあの日から四日たってゐるなあ。ちょっとの間に木の芽が大きくなった。」 署長はそらを見あげた。春らしいしめった白い雲が丘の山からぼおっと出てくろもじのにほひが風にふうっと漂って来た。 「あゝいゝ匂だな。」署長が云った。 「いゝ匂ですな。」名誉村長が云った。
「税務署長の冒険」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
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