日日平安(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
飄々とした素浪人の知略
- 風刺
- 冒険
- 文字数
- 28,232字
- 読了目安
- 約56分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1954年(昭和29年)、「サンデー毎日」臨時増刊に発表した中編時代小説。黒澤明監督の映画「椿三十郎」(1962年)の原作として知られる。腹をすかせて切腹の真似ごとまでする素浪人・菅田平野が、藩政の腐敗を正そうとする若侍・井坂十郎太と行きがかりで手を組み、飄々とした知略で藩の騒動に関わってゆく。飄逸なユーモアと、俗物めいた主人公の造形で、周五郎の明るい一面を代表する快作である。
あらすじ
江戸へ帰る道中の若侍・井坂十郎太は、道端で切腹の真似ごとをしている素浪人に呼び止められる。菅田平野と名のるその男は、じつは飢えのあまり一食の銭をせびろうとしていたのだった。紙入れを伯父の家に忘れたと気づいた十郎太が引き返すと知り、菅田は「乗りかかった船」と同行を申し出る。道々、十郎太が城代家老である伯父・陸田精兵衛のもとで、藩政を壟断する黒藤源太夫ら奸臣の粛清を志して江戸へ追われた身の上だと知った菅田は、この機に仕官の道を開こうと十郎太をそそのかす。ところが城下へ戻ってみると、奸臣一味が先手を打って陸田城代を拉致し、罪を城代になすりつけようとしていた。危急のなか、腹はへっても頭は冴える菅田は軍師役を買って出る。同志を集めて敵をあざむく偽の密告で討手を寺へおびき出し、自らは乞食同然の姿で黒藤邸へ乗り込んで城代の監禁場所を突き止め、火を放って合図を送る——血を流さぬ知略の限りを尽くし、菅田の策戦はみごとに成功する。だが事が成った瞬間、立身めあての自分の下心が恥ずかしくなった菅田は、そっとその場を去ろうとする。空きっ腹と、追いかけてきた十郎太に引き止められ、菅田は照れ隠しに「御藩の平安のため」と言いつくろい、こらえきれず笑いながら頭を下げるのだった。
登場人物
- 菅田平野 北越の素浪人。尾羽うち枯らした風貌で、飢えつつも知略に長ける本作の主人公
- 井坂十郎太 城代家老陸田精兵衛の甥。婿養子に望まれた若侍。奸臣粛清を志す
- 陸田精兵衛 城代家老。「日日平安」を口癖とする悠揚たる人物。奸臣に拉致される
- 千鳥 陸田の一人娘。おおらかで天真爛漫
- 黒藤源太夫 藩政を壟断する次席家老。奸臣一味の首魁
- 寺田文治・河原源内・保川英之助ら 十郎太の同志の若侍たち
冒頭部(原文より)
井坂十郎太は怒っていた。まだ忿懣のおさまらない感情を抱いて歩いていたので、その男の姿も眼にはいらなかったし、呼ぶ声もすぐには聞えなかった。三度めに呼ばれて初めて気がつき、立停って振返った。
「日日平安」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「戻ってくれますか」 「やむを得ません」と菅田平野は云った、「――御藩の平安のためですから戻りましょう」 そしてつい知らずおじぎをし、十郎太を見て、もうがまんしきれずに笑いながら云った。 「どうも有難う」
「日日平安」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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