須磨寺附近(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
生きている目的が分かるか
- 青春
- 心理
- 文字数
- 10,398字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 兵庫県
この作品について
山本周五郎の文壇的な出世作となった短編。1926年(大正15年)「文藝春秋」に発表され、菊池寛に認められて作家の道が開けた。心に痛手を負った青年・清三が、友を頼って須磨に身を寄せ、そこで出会った友の嫂・康子に淡い心を寄せながら、いっそう深い喪失感へ落ちてゆく数日を描く。のちの時代小説の作家とは印象を異にする、抒情と感傷にみちた青春小説であり、須磨寺周辺の秋景色が青年の内面と響き合う。
あらすじ
精神的に手ひどい打撃を受けた清三は、友人の青木に迎えられて須磨にやって来る。青木は米国支店詰めの兄の留守宅を、その嫂と二人で預かって暮らしていた。秋の須磨で、清三は静かな友の生活の蔭に慰めを求めようとする。海と山にはさまれた土地の澄んだ空気、須磨寺の朱い山門、鉄枴山の峰——そうした風物のなかで、清三は青木の嫂・康子のひそやかな翳りに触れる。夫を海の向こうに送り、若い身空で留守を守る康子は、清三に対してときに冷たく、ときに謎めいた親しさを見せる。山門の下で彼女が投げた「生きている目的が分かるか」という一言は、答えを持たぬ清三の胸に突き刺さる。癒しを求めて来たはずの旅先で、清三はかえって己の空虚を思い知らされ、雨の朝、二階の窓から霞む山を眺めながら、こらえきれぬ涙を流すのだった。
登場人物
- 清三 心に痛手を負い、友を頼って須磨へ来た青年
- 青木 清三の友人。兄の留守宅を嫂と守る
- 康子 青木の嫂。夫を米国へ送り、若い身で留守を預かる
冒頭部(原文より)
一 清三は青木に迎えられて須磨に来た。 青木は須磨寺の近くに、嫂と二人で、米国の支店詰になって出張している兄の留守を預っていた、で、精神的にかなり手甚い打撃を受けていた清三は、その静かな友の生活の蔭に慰を求めたのであった。 須磨は秋であった。
「須磨寺附近」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
冷たい清い空気を胸いっぱいに吸いたいような気がしたので清三は二階へ上って、北側の窓を開けた、雨の中に須磨寺や鉄枴山の峰が寒くかすんでいた。 「生きている目的が分かるか」清三は朱い山門の下で云った康子の言葉を想い出した。傘を開こうとしながら、横眼使いに自分を見た、女の色っぽい姿も眼に見えた。清三の眼の前で、山や森が呆と消えた。泪が続いて頬を流れた。
「須磨寺附近」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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