枡落し(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
下谷の母娘のささやかな救い
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 33,743字
- 読了目安
- 約1時間7分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎の時代小説(人情もの)。下谷御徒町の裏長屋に暮らす、貧しい母娘。「人殺しの子」という世間の目に追いつめられ、幾度も親子心中を思いつめてきた二人の日々を描く。江戸の市井に生きる者の哀しみと救いを、あたたかく見つめた一編である。
あらすじ
「ねえ、死にましょうよ。二人でいっしょに死にましょうよ、ねえ、おっ母さん」——秋祭りの賑やかな囃子が聞こえてくる下谷御徒町の裏長屋で、娘のおうめが、思いつめたように母のおみきに言う。「あたし独りで死ぬのは怖いの」。この母娘は、「人殺しの子」「人殺しの娘」という世間の冷たい目にさらされ、町を歩けば人々にじろじろと見られる、いわれのない負い目を背負って生きていた。おみきもまた、幾たびとなく娘といっしょに死のうと考えてきた。「あたしたち貧乏人は、どうしてすぐに死にたがるのだろう、生きているより死ぬほうが楽だと思うからだろうか」——。だが、物語は絶望では終わらない。さまざまな出来事を経て、母娘のまわりの事は、やがて「みんなうまくおさまる」。物語の結び、おうめは、亡き祖父の心がいちばん残っている牛の御前へ行って、「みんなうまくおさまりました」と報告したいと言う。芳造という若者とともに、渡し場へと向かうおうめの足どりには、もう死の影はない。「もうかみさん気取りか」——そんな軽口が交わされるほどに。江戸の市井に生きる貧しい人々の哀しみと、ささやかな救いを、あたたかく見つめた、山本の人情ものである。
登場人物
- おうめ 貧しい長屋の娘
- おみき おうめの母
- 芳造 おうめの相手の若者
冒頭部(原文より)
――ねえ、死にましょうよ、とおうめが思いつめたように云った。二人でいっしょに死にましょうよ、ねえ、おっ母さん。 表通りから笛や鉦や太鼓の、賑やかな祭囃しが聞えてきた。下谷御徒町の裏にいたときで、秋祭の始まった晩のことだった。
「枡落し」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「あたしお祖父さんに云いたいの」おうめはあるきながら眼を伏せた、「――牛の御前へいって、みんなうまくおさまりましたって、それだけを云いたいの」 「わかるよ、竹屋の渡しでいこうか」 「危ないっ」おうめは芳造を押しやった、「四つ手駕籠よ、気をつけてちょうだい」 「もうかみさん気取りか、渡し場はこっちだぜ」
「枡落し」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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