蛙のゴム靴(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
三匹の蛙と、一足のゴム靴
- 幻想
- 文字数
- 7,418字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
堰のほとりに住むカン蛙・ブン蛙・ベン蛙の三匹が、夏の雲の峰を眺める「雲見」に興じ、やがて一足のゴム靴をめぐって見栄と嫉妬をつのらせてゆく宮沢賢治の童話。生前は発表されなかった一篇で、野鼠から鼠、猫、犬、馬へとさかのぼるゴム靴の入手経路の可笑しさ、「さよならね」を繰り返す蛙の挨拶、そして語り手が途中で読者に「もう少しです。我慢して下さい」と断りを入れる呼吸など、賢治のユーモアがよく出ている。
あらすじ
松や楢の林の下を深い堰が流れ、その岸のつゆ草のかげにカン蛙、楢の木の下にブン蛙、すすきのかげにベン蛙の家があった。三匹は同い年で同じくらいの大きさ、どれも負けず劣らず生意気ないたずら者である。夏の夕暮れ、三匹はつめくさの広場に座って「雲見」をする。蛙にとって夏の雲の峰ほど見飽きないものはない。ある日カン蛙は、野鼠から鼠、猫、犬、馬へとさかのぼる面倒な手づるをたどって、ついに一足のゴム靴を手に入れた。それをはいてすっすっと歩くカン蛙に、ブン蛙とベン蛙はうらやましさを隠せない。ちょうどそこへ婿を探しに来た娘のルラ蛙が現れ、迷わずカン蛙を指さした。悔しさのあまり、二匹はカン蛙に仕返しをたくらむ。まず散歩に誘い出して萱の刈跡を歩かせ、ゴム靴をぼろぼろに裂いてしまう。さらに結婚式のあとには、木の葉をかぶせた杭の穴へ二人を落としてやろうと申し合わせた。ところが計画は思わぬ方へ転がり、気がつけば三匹そろって穴の底である。半日ののち、ルラ蛙と父親の蛙に見つけられ、ひかげのかつらを吊るして一匹ずつ引き上げられた。白い腹を見せて半死になっていた三匹は、ごまざいの毛でこすられてようやく息を吹き返す。それからはみんな心を改め、よく働くようになった。
登場人物
- カン蛙 つゆ草のかげに住む蛙。のちにルラ蛙といっしょになる
- ブン蛙 楢の木の下に住む蛙
- ベン蛙 すすきのかげに住む蛙
- ルラ蛙 三匹が張り合う相手となる若い蛙
冒頭部(原文より)
松の木や楢の木の林の下を、深い堰が流れて居りました。岸には茨やつゆ草やたでが一杯にしげり、そのつゆくさの十本ばかり集った下のあたりに、カン蛙のうちがありました。 それから、林の中の楢の木の下に、ブン蛙のうちがありました。 林の向ふのすゝきのかげには、ベン蛙のうちがありました。 三疋は年も同じなら大きさも大てい同じ、どれも負けず劣らず生意気で、いたづらものでした。 ある夏の暮れ方、カン蛙ブン蛙ベン蛙の三疋は、カン蛙の家の前のつめくさの広場に座って、雲見といふことをやって居りました。一体蛙どもは、みんな、夏の雲の峯を見ることが大すきです。
「蛙のゴム靴」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
もう死んだかもしれないわ」 お父さんの蛙は落ちないやうに気をつけながら耳を穴の口へつけて音をききましたら、かすかにぴちゃといふ音がしました。 「占めた」と叫んでお父さんは急いで帰って仲間の蛙をみんなつれて来ました。そして林の中からひかげのかつらをとって来てそれを穴の中につるして、たうとう一ぴきづつ穴からひきあげました。 三疋とももう白い腹を上へ向けて眼はつぶって口も堅くしめて半分死んでゐました。 みんなでごまざいの毛をとって来てこすってやったりいろいろしてやっと助けました。 そこでカン蛙ははじめてルラ蛙といっしょになりほかの蛙も大へんそれからは心を改めてみんなよく働くやうになりました。
「蛙のゴム靴」宮沢賢治(青空文庫)
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