もみの木(アンデルセン)のあらすじ・登場人物
大きくなりたいもみの木
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 11,652字
- 読了目安
- 約23分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
アンデルセンが1844年12月、「雪の女王」とともに『新童話集』第1巻第2集で発表した童話(原題「Grantræet」)を、楠山正雄が訳したもの(同和春秋社『新訳アンデルセン童話集』第二巻)。町はずれの森に生えた小さなもみの木は、あたたかい日の光にも、すずしい風にも、そばで遊ぶ子どもたちにも心を向けず、ただ早く大きくなって広い世界を見たいと願っている。こうのとりからは船の帆柱になった木の話を、すずめからはクリスマスに飾られる木の話を聞き、まだ見ぬ先へと気持ちをはやらせていく。日の光や風が若い木にかける言葉と、木の独り言との行き違いが物語を運び、作中で語られる「でっくりもっくりさん」のお話など、楠山訳らしい言葉の遊びも楽しい。
あらすじ
町はずれの森の小さなもみの木は、ただ大きくなりたいとばかり願い、日の光や風、そばで遊ぶ子どもたちには目もくれない。木こりに切り出された大木の行方をたずねると、こうのとりは船の帆柱になったのだろうと言い、すずめはクリスマスに美しく飾られる木の話をする。日の光と風は、若いときをたのしむのがいちばんだと教えるが、もみの木には響かない。やがて立派に育ったもみの木は、クリスマスにまっさきに切り出され、ある家の大広間でろうそくや金紙の星、お菓子やおもちゃで飾られる。明かりのともった晩、子どもたちは飾りをもぎ取って踊りまわり、ずんぐりした男が「でっくりもっくりさん」の話をして聞かせる。もみの木は明日もまた飾ってもらえると思うが、翌朝、屋根裏の物置の暗いすみへ放りこまれ、忘れられてしまう。冬のあいだ、もみの木は訪ねてきた小ねずみたちに森の日々やクリスマスの晩の話をしてやり、語るうちに、あのころが自分のいちばんしあわせな時だったと気づく。しかし話が一つしかないと親ねずみにあきれられ、ねずみたちも来なくなる。春、庭へ運び出されたもみの木は生きかえったと喜ぶが、枝はすっかり枯れて黄色くなっていた。子どもに金の星をもぎ取られ、楽しめるときに楽しんでおけばよかったと嘆くもみの木は、薪にされてかまどの下で燃やされ、パチパチとため息をつきながら森や聖夜の思い出のうちに燃えつきた。
登場人物
- もみの木 町はずれの森に生えた若い木。早く大きくなって広い世界へ出たいと願う
- こうのとり 帆柱になった木の話を聞かせる
- すずめたち クリスマスに飾られる木の話を聞かせる
- 小ねずみたち 屋根裏でもみの木の話を聞きにくる
- ずんぐりした小さい人 クリスマスの晩に子どもたちにお話をする
冒頭部(原文より)
まちそとの森に、いっぽん、とてもかわいらしい、もみの木がありました。そのもみの木は、いいところにはえていて、日あたりはよく、風とおしも十分で、ちかくには、おなかまの大きなもみの木や、はりもみの木が、ぐるりを、とりまいていました。でもこの小さなもみの木は、ただもう大きくなりたいと、そればっかりねがっていました。ですから森のなかであたたかいお日さまの光のあたっていることや、すずしい風の吹くことなどは、なんともおもっていませんでした。また黒いちごや、オランダいちごをつみにきて、そこいらじゅうおもしろそうにかけまわって、べちゃくちゃおしゃべりしている百姓のこどもたちも、気にかからないようでした。こどもたちは、つぼいっぱい、いちごにしてしまうと、そのあとのいちごは、わらでつないで、ほっとして、小さいもみの木のそばに、腰をおろしました。そして 「やあ、ずいぶんかわいいもみの木だなあ。」 と、いいいいしました。けれど、そんなことをいわれるのが、このもみの木は、いやで、いやで、なりませんでした。
「もみの木」アンデルセン(青空文庫)
末尾部(原文より)
やがて、下男が来て、もみの木を小さくおって、ひとたばの薪につかねてしまいました。それから大きなゆわかしがまの下へつっこまれて、かっかと赤くもえました。もみの木はそのとき、ふかいためいきをつきました。そのためいきは、パチパチ弾丸のはじける音のようでした。ですから、そこらであそんでいるこどもたちは、みんなかけてきて、火のなかをのぞきこみながら、 「パチ、パチ、パチ。」と、まねをしました。 もみの木は、あいかわらず、ふかいためいきのかわりに、パチ、パチいいながら、森のなかの、夏のまひるのことや、星がかがやいている、冬の夜半のことをおもっていました。またクリスマスの前の晩のことや、たったひとつきいて、しかも、そのとおりにおはなしのできるでっくりもっくりさんの、むかしばなしのことを、かんがえていました――するうち、木はもえきってしまいました。 こどもたちは、やはり、にわであそんでいました。そのいちばん小さい子は、金の星をむねの上につけていました。その星は、もみの木が一生のうちで、いちばんたのしかった晩、あたまにつけていたものでした。けれど、いまはそれも、おしまいになりました。もみの木も、そのおはなしも、おしまいになりました。おしまい。おしまい。さて、どんなおはなしも、そうしておしまいになっていくのです。
「もみの木」アンデルセン(青空文庫)
名文
「わかいあいだが、なによりもいいのだよ。ずんずんのびて、そだっていくわかいときほど、たのしいことはないのだよ。」
大きくなることばかり願う若いもみの木に、お日さまの光がかける言葉。今を味わえない木の姿が、物語の主題を形づくる。
原文を読む
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