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人魚のひいさま(アンデルセン)のあらすじ・登場人物

声とひきかえに、人間の足を

  • 幻想
  • 恋愛
  • 翻訳

アンデルセン 訳者 楠山正雄 

文字数
29,138字
読了目安
約58分
表記
新字新仮名

この作品について

日本では「人魚姫」の題で知られるアンデルセンの代表作を、楠山正雄が訳した一篇。海の底の御殿に育った末の姫が、十五になって初めて海の上を見、難破した船から王子を救い出す。人間の足と不滅の魂を得るために声を差し出し、一歩ごとに刃を踏むような痛みに耐えながら愛を求める姿は、報われない献身の物語として語りつがれてきた。原作の宗教的な色合いも省かずに訳されている。

あらすじ

海の底の御殿に、人魚の王の六人の娘がいた。末の姫はいちばん物静かで、庭には海に沈んだ大理石の少年像を置き、赤い柳を植えて育てている。人魚は十五になると海の上へのぼることを許される決まりで、姉たちが順に語って聞かせる地上のようすに、末の姫は焦がれつづけた。自分の番が来た夜、姫が見たのは大きな船の誕生祝いと、そこにいた美しい王子である。嵐で船が砕けると、姫は王子を抱いて岸まで運び、岩かげから見守った。王子は寺の娘に助けられたと信じたまま去ってゆく。人間は人魚より短命だが不滅の魂を持つと祖母に聞いた姫は、海の魔女のもとを訪ね、美しい声とひきかえに人間の足を得る。ただし歩くたびに刃を踏むような痛みがあり、王子がほかの人と結婚すれば海の泡になるという約束つきだった。王宮に迎えられた姫はかわいがられるが、王子は隣国の姫こそ命の恩人だと思いこんで結婚してしまう。婚礼の夜、姉たちは髪とひきかえに得た刃を差し出し「王子の胸を刺せば助かる」と告げるが、姫はそれを海へ投げ捨て、日の出とともに泡になる。そして目に見えない大気の娘たちの仲間に加わるのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

はるか、沖合へでてみますと、海の水は、およそうつくしいやぐるまぎくの花びらのように青くて、あくまですきとおったガラスのように澄みきっています。でも、そこは、ふかいのなんのといって、どんなにながく綱をおろしても底にとどかないというくらいふかいのです。お寺の塔を、いったい、いくつかさねて積み上げたら、水の上までとどくというのでしょうか。そういうふかい海の底に、海のおとめたち――人魚のなかまは住んでいるのです。  ところで、海の底なんて、ただ、からからな砂地があるだけだろうと、そうきめてしまってはいけません。

「人魚のひいさま」アンデルセン(青空文庫)

末尾部(原文より)

」と、大空のむすめのひとりがささやいてくれました。「目にはみえないけれど、あたしたちは、こどもたちのいるところなら、どの人間の家にもただよっています。そこで毎日、その親たちをよろこばせ、その愛しみをうけているいい子をみつけるたんびに、そのためしのときがみじかくなります。こどもは、いつ、あたしたちがへやのなかへはとんで行くかしらないのです。でも、あたしたちが、いいこどもをみて、ついよろこんでほほえみかけるとき、三百年が一年へります。けれど、そのかわり、いたずらな、またはいけないこどもをみて、かなしみの涙をながさせられると、そのひとしずくのために、あたしたちのためしのときも、一日だけのびることになるのですよ。」

「人魚のひいさま」アンデルセン(青空文庫)

名文

はるか、沖合へでてみますと、海の水は、およそうつくしいやぐるまぎくの花びらのように青くて、あくまですきとおったガラスのように澄みきっています。でも、そこは、ふかいのなんのといって、どんなにながく綱をおろしても底にとどかないというくらいふかいのです。お寺の塔を、いったい、いくつかさねて積み上げたら、水の上までとどくというのでしょうか。そういうふかい海の底に、海のおとめたち――人魚のなかまは住んでいるのです。

アンデルセン『人魚姫』(原題『人魚のひいさま』)の書き出し。やぐるまぎくの青と澄んだガラスにたとえた、深い深い海の底の描写から物語が始まる。

でも、あたしたちが、いいこどもをみて、ついよろこんでほほえみかけるとき、三百年が一年へります。けれど、そのかわり、いたずらな、またはいけないこどもをみて、かなしみの涙をながさせられると、そのひとしずくのために、あたしたちのためしのときも、一日だけのびることになるのですよ。

結末で、泡になった人魚に空気の娘たちが明かす言葉。善い行いを重ねれば、死なない魂を得られる——という救いが示される。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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