人魚の姫(アンデルセン)のあらすじ・登場人物
声とひきかえに得た二本の足
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 30,244字
- 読了目安
- 約1時間
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
デンマークの童話作家アンデルセンが1837年に発表した、「人魚姫」の名で世界に親しまれている創作童話(原題「Den lille Havfrue」)を、北欧文学者の矢崎源九郎が訳したもの(新潮文庫『人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ』)。人間の王子に恋をした海の王の末娘が、美しい声とひきかえに足を得て陸へ上がる。人魚には人間のような死なない魂がなく、死ねば海のあわになるという設定のもとで、報われない恋と魂へのあこがれを描いた物語は、コペンハーゲンの人魚像やアニメーション映画などでも広く知られる。矢崎訳は、やさしい語りかけの口調で原作を丁寧に伝えている。
あらすじ
海の底の深いところに、人魚の王さまのお城があった。六人のお姫さまのうち、いちばん下の末娘は、無口で考え深く、海の上の人間の世界に人一倍あこがれている。人魚は十五になると海の上へ浮かびあがることを許される。とうとう十五になった末のお姫さまは、大きな船の上で誕生日を祝う若い王子を見て心を奪われ、その夜の嵐で船が沈むと、溺れかけた王子を抱いて浜辺まで運んだ。王子のことが忘れられない姫は、おばあさまから、人魚は三百年生きるが死ねばあわになって消え、人間には死なない魂があると聞かされる。人間に心から愛されて結婚すれば、その魂を分けてもらえるという。姫は海の魔法使いのおばあさんを訪ね、美しい声を舌ごと差し出して人間の足を得る。ただし一歩ごとにナイフを踏むような痛みがあり、王子がほかの人と結婚すれば、その翌朝には海のあわになってしまうのだった。王子は口のきけない姫をかわいがるが、自分を浜辺で救ったのは修道院の娘だと思いこんでいる。やがて王子はとなりの国の王女を妃に迎えることになり、その王女こそあの娘だった。婚礼の夜の船の上で、姉たちが髪とひきかえに魔法使いから手に入れたナイフを差し出す——王子の胸を刺せば、人魚に戻れるのだと。
登場人物
- 人魚のお姫さま 海の王の末娘。人間の王子に恋をし、声とひきかえに足を得る
- 王子 嵐の夜にお姫さまに救われるが、それを知らない
- おばあさま お姫さまたちの祖母。人間の魂のことを教える
- 魔法使いのおばあさん 海の底に住み、声とひきかえに人間の足を与える
- となりの国の王女 王子が自分の命の恩人と思いこむ娘
冒頭部(原文より)
海のおきへ、遠く遠く出ていきますと、水の色は、いちばん美しいヤグルマソウの花びらのようにまっさおになり、きれいにすきとおったガラスのように、すみきっています。けれども、そのあたりは、とてもとても深いので、どんなに長いいかり綱をおろしても、底まで届くようなことはありません。海の底から、水の面まで届くためには、教会の塔を、いくつもいくつも、積みかさねなければならないでしょう。そういう深いところに、人魚たちは住んでいるのです。 みなさんは、海の底にはただ白い砂地があるばかりで、ほかにはなんにもない、などと思ってはいけません。そこには、たいへんめずらしい木や、草も生えているのです。
「人魚の姫」アンデルセン(青空文庫)
末尾部(原文より)
人魚のお姫さまは、すきとおった両腕を、神さまのお日さまのほうへ高くさしのべました。そのとき、生れてはじめて、涙が頬をつたわるのをおぼえました。―― 船の中が、また、がやがやとさわがしくなりました。見れば、王子が美しい花嫁といっしょに、お姫さまをさがしています。お姫さまが、波の中に身を投げたのを、ふたりは、まるで知ってでもいるように、あわだつ波間を悲しそうに見つめていました。 人の目には見えないけれども、人魚のお姫さまは、花嫁のひたいにそっとキスをして、王子にはほほえみかけました。それから、ほかの空気の娘たちといっしょに、空にただよう美しいバラ色の雲のほうへとのぼっていきました。 「そうすると、三百年たったら、あたしたちも、神さまのお国へ浮んでいけますのね」 「でも、もっと早く行けるかもしれませんよ」と、空気の娘のひとりが、ささやきました。「あたしたちは、人に見られないで、子供のいる人間の家にはいっていくのです。そうして、おとうさんやおかあさんをよろこばせて、おとうさんやおかあさんにかわいがられているよい子供を、毎日見つけるのです。そうすると、神さまがそれをごらんになっていて、あたしたちをおためしになる時を短くしてくださるのです。 その子には、あたしたちが、いつお部屋の中を飛んでいるのかわかりません。でも、そういう子供を見つけると、あたしたちはうれしくなって、つい、にっこりと笑いかけてしまいます。そうすると、すぐに三百年のうちから一年へらしてもらえるのです。けれども、その反対に、おぎょうぎのわるい、よくない子どもを見ると、悲しくなって、思わず泣いてしまいます。そうすると、今度は、涙をこぼすたびごとに、神さまのおためしになる時が、一日ずつのびていくのです」――
「人魚の姫」アンデルセン(青空文庫)
名文
海のおきへ、遠く遠く出ていきますと、水の色は、いちばん美しいヤグルマソウの花びらのようにまっさおになり、きれいにすきとおったガラスのように、すみきっています。
アンデルセン『人魚の姫』の書き出し。花とガラスにたとえた澄んだ青で、読者を深い海の底の人魚の国へといざなう。
「ああ、王子さま、あなたのおそばにいたいために、あたしは、永久に声をすててしまったのです。せめて、それだけでも、わかってくださったら」
声と引きかえに人間の姿を得た姫の、口に出せない心の叫び。伝えられない思いの切なさがこの物語の核にある。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。
同じ作家の作品
近い作品
- アラビヤンナイト アラジンとふしぎなランプ
- アラビヤンナイト 船乗シンドバッド
- リップ・ヴァン・ウィンクル
- 白雪姫
- ろくろ首 1904年(明治37年)4月
- 耳無芳一の話 1904年(明治37年)4月