ひこうかばん(アンデルセン)のあらすじ・登場人物
空を飛ぶかばんの恋
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 7,333字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
アンデルセンが1839年10月に発表した童話(原題 Den flyvende Kuffert)を、児童文学者の楠山正雄が訳したもの。財産を使い果たした商人の息子が、錠を押すと空を飛ぶ古いかばんでトルコへ渡り、城に閉じこめられた姫のもとへ忍びこむ。姫の両親に聞かせる「お話」が筋の中心で、台所の道具たちが身分を競うその話は、話し手の調子のよさを伝える小さな劇になっている。短い中に、空想の旅と軽い皮肉がつまった一篇。
あらすじ
金持ちの商人の息子が親の財産を使い果たし、友だちから古いかばんをもらう。それは錠を押すと空を飛ぶかばんだった。息子はかばんに乗ってトルコへ行き、城の高い所に閉じこめられている姫の部屋へ忍びこんで、自分はトルコの神さまだと名乗って求婚し、姫の承知を得る。土曜日に王さまとお妃の前でお話をすることになり、マッチと台所の道具たちが身分や生まれを自慢しあう話をして気に入られ、結婚を許される。祝いの前夜、息子は花火を買いこんでかばんで空に上がり、町の人々に大騒ぎをさせて、みんなが神さまの噂をするのを聞いて回る。ところが翌日、森へ戻ってみると、かばんは残った花火の火で燃えてしまっていた。息子はもう飛べず、姫のもとへ行けなくなる。姫は屋根の上で一日じゅう待ちつづけ、たぶん今も待っている。息子は世界じゅうを歩いてお話をして回るが、もうマッチの話ほどおもしろい話は作れなかった。
冒頭部(原文より)
むかし、あるとき、お金持のあきんどがありました。どのくらいお金持だといって、それは町の大通のこらず銀貨で道をこしらえて、そのうえ横町の小路にまでそれをしきつめて、それでもまだあまるほどのお金を持っていました。でも、このあきんどは、そんなことはしません。もっとほかにお金をつかうことをかんがえて、一シリングだせば、一ターレルになってもどってくる工夫をしました。まあ、そんなにかしこいあきんどでしたが――そのうち、このあきんども死にました。 そこで、むすこが、のこらずのお金をもらうことになりました。そうしてたのしくくらしました。毎晩、仮装舞踏会へでかけたり、お札でたこをはってあげたり、小石の代りに、金貨で海の水を打ってあそんだりしました。まあこんなふうにすれば、いくらあっても、お金はさっさとにげていってしまうでしょう。とうとうむすこはたった四シリングの身代になってしまいました。身につけているものといっては、うわぐつ一足と、古どてらのねまきのほかには、なにもありません。こうなると、友だちも、いっしょに往来をあるくことをきまりわるがってまるでよりつかなくなりました。
「ひこうかばん」アンデルセン(青空文庫)
末尾部(原文より)
まったくむすこのきいたことはみんなすばらしいことばかりでした。さて、あくる日はいよいよ結婚式の当日でした。そこで、むすこは、ひとまず森にかえって、かばんのなかでひと休みしようとおもいました。――ところがどうしたということでしょう。かばんは、まる焼けになっていました。かばんのなかにのこっていた花火から火がでて、かばんを灰にしてしまったのです。 むすこはとぶことができません。もうおよめさんのところへいくこともできません。 およめさんは、一日、屋根のうえにたって待ちくらしました。たぶん、いまだに待っているでしょう。けれどむすこはあいかわらずお話をしながら、世界じゅうながれあるいていました、でも、マッチのお話のようなおもしろい話はもうつくれませんでした。
「ひこうかばん」アンデルセン(青空文庫)
原文を読む
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