イギリス海岸(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
北上川の岸を、そう呼んだ
- 文字数
- 10,482字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 岩手県
この作品について
花巻農学校の教師だった賢治が、生徒たちと通った北上川の岸辺を書きとめた一篇。青白い凝灰質の泥岩が広く露出したその場所を、彼は「イギリス海岸」と呼んだ。地質の話、泥岩に残るくるみの実や偶蹄類の足跡の化石、生徒と水に入った日のできごとが、農場実習の日録の調子で語られる。花巻のイギリス海岸は今も北上川に残る実在の場所で、この文章によって名が広く知られるようになった。
あらすじ
夏休みの十五日間の農場実習のあいだ、仕事が一区切りつくたびに、私どもは北上川の西岸へ遊びに行った。猿ヶ石川の落合から少し下流のそのあたりには、青白い凝灰質の泥岩が川に沿って広く露出していて、水かさが増すたびに洗われるので、いつも清潔に白く光っている。そこを誰からともなくイギリス海岸と呼ぶようになった。日が強く照ると岩は乾いてまっ白になり、ひび割れが走り、大きな帽子をかぶって歩けば影法師が黒々と落ちる。生徒たちは泳ぎ、岩の上を走り、私は泥岩の層を調べて歩く。そこにはくるみの実が化石になって埋まり、偶蹄類らしい足跡が残っていた。ある日、それを掘り取ろうと生徒たちが集まる。荒い瀬から飛びこんで渡る者もいるが、先に校長が飛びこんでゆっくり泳いでいるので心配はいらない。持ち帰った標本を手に学校へ戻ったのが昨日のこと、今日は実習の九日目で朝から雨が降っている。これから麦こなしという、芒が体に入るつらい仕事が残っているが、どうにかできるだけ面白くやろうと思うのだ——そんな結びまで、教師としての日々の手ざわりが書きとめられている。
冒頭部(原文より)
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処がありました。 それは本たうは海岸ではなくて、いかにも海岸の風をした川の岸です。北上川の西岸でした。東の仙人峠から、遠野を通り土沢を過ぎ、北上山地を横截って来る冷たい猿ヶ石川の、北上川への落合から、少し下流の西岸でした。 イギリス海岸には、青白い凝灰質の泥岩が、川に沿ってずゐぶん広く露出し、その南のはじに立ちますと、北のはづれに居る人は、小指の先よりもっと小さく見えました。 殊にその泥岩層は、川の水の増すたんび、奇麗に洗はれるものですから、何とも云へず青白くさっぱりしてゐました。
「イギリス海岸」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
しばらくたって私たちはみんなでそれを持って学校へ帰りました。そしてさっきも申しましたやうにこれは昨日のことです。今日は実習の九日目です。朝から雨が降ってゐますので外の仕事はできません。うちの中で図を引いたりして遊ばうと思ふのです。これから私たちにはまだ麦こなしの仕事が残ってゐます。天気が悪くてよく乾かないで困ります。麦こなしは芒がえらえらからだに入って大へんつらい仕事です。百姓の仕事の中ではいちばんいやだとみんなが云ひます。この辺ではこの仕事を夏の病気とさへ云ひます。けれども全くそんな風に考へてはすみません。私たちはどうにかしてできるだけ面白くそれをやらうと思ふのです。(一九二三、八、九、)
「イギリス海岸」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
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