マグノリアの木(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
霧の谷に咲く白いマグノリア
- 幻想
- 文字数
- 2,868字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治の短編童話。霧のたちこめる険しい山谷を一人で渡る諒安が、やがてマグノリアの花がいちめんに咲く光の中へ出て、天の子供らや、自分と同じ姿の人と言葉をかわす。図書カードの注記によれば、賢治が21歳の頃に発表した「峯と谷と」を改稿した作品で、仏教の世界観が色濃い。
あらすじ
霧が降るなか、諒安はひとりで険しい山谷の刻みを渉って行く。竜の髯の生えた斜面で眠り込むと、「これがお前の中の景色なのだよ」という声が聞こえた。目をさまして灌木の崖をよじのぼり、枯草の頂上に出ると霧は晴れ、谷という谷にマグノリアの白い花が咲いていた。近くのほおの木の下には、羅をつけた二人の子供が立ち、花を見て歌っている。そこへ、諒安と同じくらいの背丈の人が現れ、「マグノリアの木は寂静印です」と言う。二人は、ここの平らかさはけわしさに対する平らさにすぎないと語り、けわしい峯も暗い谷も、マグノリアの花も、すべて覚者の善であり自分たちの善でもあると確かめ合って、恭しく礼をする。
登場人物
- 諒安 霧の山谷を一人で渡る人物
- 天の子供ら マグノリアの木の下で歌う二人の子供
- 諒安と同じ姿の人 マグノリアの木は寂静だと語る
冒頭部(原文より)
霧がじめじめ降っていた。 諒安は、その霧の底をひとり、険しい山谷の、刻みを渉って行きました。 沓の底を半分踏み抜いてしまいながらそのいちばん高い処からいちばん暗い深いところへまたその谷の底から霧に吸いこまれた次の峯へと一生けんめい伝って行きました。
「マグノリアの木」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「そうです、そしてまた私どもの善です。覚者の善は絶対です。それはマグノリアの木にもあらわれ、けわしい峯のつめたい巌にもあらわれ、谷の暗い密林もこの河がずうっと流れて行って氾濫をするあたりの度々の革命や饑饉や疫病やみんな覚者の善です。けれどもここではマグノリアの木が覚者の善でまた私どもの善です。」 諒安とその人と二人はまた恭しく礼をしました。
「マグノリアの木」宮沢賢治(青空文庫)
名文
(けわしくも刻むこころの峯々に いま咲きそむるマグノリアかも。)
霧が晴れ、険しい山谷いちめんにマグノリアの白い花が咲くのを諒安が見たとき、どこからか聞こえる歌。苦しい道のりがそのまま心の景色だったと示す。
「ええ、私です。またあなたです。なぜなら私というものもまたあなたが感じているのですから。」
マグノリアの木の下で出会った人が諒安に答える言葉。自分と他者の境がほどける、賢治の宗教的な思索がよく表れた対話。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。