かちかち山(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
童話の残酷を象徴詩へ昇華した掌編
- 幻想
- 文字数
- 1,015字
- 読了目安
- 約2分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
芥川竜之介による、昔話「かちかち山」を題材にした散文詩的な掌編。童話時代のうす明りのなか、老人と兎が、殺された老婆を悼み、狸への復讐へ向かう——よく知られた仇討ちの物語を、獣性が獣性を滅ぼす争いの象徴として、幻想的な筆致で描き出す。
あらすじ
童話時代のうす明りのなか、一人の老人と一頭の兎が、舌切雀のかすかな羽音を聞きながら、静かに老人の妻の死を嘆いている。遠くには鬼ヶ島へ通う夢の海の、永久に崩れることのない波の響き。妻の屍骸を埋めた土の上には、花のない桜の木が細い枝を空にのばしている。やがて兎は老人をいたわりながら、海辺につないだ白と黒の二艘の舟を指さす——泥の舟に狸を乗せ、湖のただ中で沈める、あの仇討ちの舟を。復讐が成し遂げられたとき、花のない桜の木には貝殻のような花が咲き、青ざめた金色の日輪がさし昇る。「童話時代の明け方に、――獣性の獣性を亡ぼす争ひに、歓喜する人間を象徴しようとするのであらう」。昔話の残酷を、幻想的な象徴詩へと昇華させた、芥川の掌編である。
冒頭部(原文より)
童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の兎とは、舌切雀のかすかな羽音を聞きながら、しづかに老人の妻の死をなげいてゐる。とほくに懶い響を立ててゐるのは、鬼ヶ島へ通ふ夢の海の、永久にくづれる事のない波であらう。 老人の妻の屍骸を埋めた土の上には、花のない桜の木が、ほそい青銅の枝を、細く空にのばしてゐる。
「かちかち山」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
見よ。それと共に、花のない桜の木には、貝殻のやうな花がさいた。あけ方の半透明な光にあふれた空にも、青ざめた金いろの日輪が、さし昇つた。 童話時代の明け方に、――獣性の獣性を亡ぼす争ひに、歓喜する人間を象徴しようとするのであらう、日輪は、さうして、その下にさく象嵌のやうな桜の花は。
「かちかち山」芥川龍之介(青空文庫)
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