海異記(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
荒海に潜む怪異
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 18,224字
- 読了目安
- 約36分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 千葉県
この作品について
泉鏡花の短編。房州の海辺に暮らす漁師の女房と、十三歳の号外売りの少年三之助とのやりとりを軸に、沖で出会った怪火の体験談と、夕暮れの浜を訪れる怪しい僧を描く。方言まじりの少年の語りと、波の音を思わせる文章が特色。明治39年(1906)1月の成立。
あらすじ
房州江見の浜辺の一軒家。漁師の松五郎の女房は、幼い娘のお浜を抱え、夫の留守を針仕事で守っている。号外売りの少年三之助が遊びに来て、この五月に鰹船で沖に出た夜、亡念の火に取り憑かれ、泣いて念仏を唱えた体験を語る。船に憑いたあやかし火は黄色く燃え、大鮫の姿や幽霊船の幻まで見せたが、夫は素裸になって海に飛び込み、船を救った。女房はそれを初めて知って涙ぐみ、三之助に、漁師でなく別の商売につくようそっと頼む。夕暮れ、烏が騒ぐ浜に、背の高い陰気な入道が軒先に現れる。女房は握り飯を差し出し、茶漬けを用意しようとするが、僧は握り飯も膳も蹴散らし、女房の胸元を指して「児を呉れい」と迫る。気がつくと夫が帰っており、女房が抱いていたお浜はすでに冷たくなっていた。
登場人物
- 松五郎 稲葉丸の船頭。腕利きの漁師
- 女房 松五郎の妻。もと東京の屋敷奉公
- 三之助 渾名を小烏という十三歳の号外売りの少年
- お浜 松五郎夫婦の幼い娘
冒頭部(原文より)
砂山を細く開いた、両方の裾が向いあって、あたかも二頭の恐しき獣の踞ったような、もうちっとで荒海へ出ようとする、路の傍に、崖に添うて、一軒漁師の小家がある。
「海異記」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
我に返って、良人の姿を一目見た時、ひしと取縋って、わなわなと震えたが、余り力強く抱いたせいか、お浜は冷くなっていた。 こんな心弱いものに留守をさせて、良人が漁る海の幸よ。 その夜はやがて、砂白く、崖蒼き、玲瓏たる江見の月に、奴が号外、悲しげに浦を駈け廻って、蒼海の浪ぞ荒かりける。
「海異記」泉鏡花(青空文庫)
名文
砂山を細く開いた、両方の裾が向いあって、あたかも二頭の恐しき獣の踞ったような、もうちっとで荒海へ出ようとする、路の傍に、崖に添うて、一軒漁師の小家がある。
冒頭の一文。砂山を「二頭の恐しき獣」にたとえ、荒海のほとりの漁師の家に不穏な気配を漂わせる。
原文を読む
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