葬られたる秘密(小泉八雲)のあらすじ・登場人物
箪笥の前に立つ亡き若妻
- 怪奇
- 翻訳
- 文字数
- 2,154字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
小泉八雲の1904年(明治37年)刊『怪談』に収められた一編「A Dead Secret」を、戸川秋骨が訳した本文。丹波の豪商・稲村屋源助の娘お園は、京都で上品な芸事を身につけたのち嫁ぎ、男の子をもうけて四年目に病で世を去る。葬式の晩から、二階の彼女の部屋の箪笥の前に、その姿が夜ごと現れるようになり、困り果てた家の人々は菩提寺の禅僧に相談する。原文で二千字あまりの短い話で、出来事を淡々と順に追い、亡き人の思いを最後まで声に出させない語り方をとっている。
あらすじ
昔、丹波の国の豪商・稲村屋源助の一人娘お園は、聡明で美しく、京都で都の婦人の芸事を学んだのち、父の知り合いの商家に嫁いで男の子をもうける。ところが結婚して四年目に病で死んでしまう。葬式の晩、幼い息子が、二階の部屋にお母さんがいたと言う。家の者が見に行くと、位牌の前の灯明の明かりに、箪笥の前に立つお園の姿が見えた。姑は、女は自分の小間物に執着するものだから、衣類を寺に納めれば安心するだろうと考え、抽斗を空にして寺へ運ぶ。だがお園は毎晩帰ってきて箪笥を見つめ、家は恐怖に包まれる。相談を受けた禅寺の大玄和尚は、その夜ひとりで部屋に坐って経を読む。子の刻を過ぎると現れたお園に、和尚は探し物を手伝おうと語りかけ、抽斗を一つずつ調べるが何もない。ふと思いついて抽斗の内張りの紙をはがしていくと、一番下の抽斗の紙の下から一通の手紙が見つかる。焼き捨てようかと尋ねる和尚に、お園の姿は頭を下げ、微笑んで消えた。手紙は、お園が京都で修業していたころに受け取った恋文だった。その中身を知る者は和尚ばかりで、秘密は和尚とともに葬られた。
登場人物
- お園 丹波の豪商の娘。嫁いで四年目に病死し、夜ごと箪笥の前に姿を現す
- 稲村屋源助 お園の父。丹波の豪商
- 大玄和尚 菩提寺の禅僧。学識ある老僧で、お園の霊の願いを探る
冒頭部(原文より)
むかし丹波の国に稻村屋源助という金持ちの商人が住んでいた。この人にお園という一人の娘があった。お園は非常に怜悧で、また美人であったので、源助は田舎の先生の教育だけで育てる事を遺憾に思い、信用のある従者をつけて娘を京都にやり、都の婦人達の受ける上品な芸事を修業させるようにした。こうして教育を受けて後、お園は父の一族の知人――ながらやと云う商人に嫁けられ、ほとんど四年の間その男と楽しく暮した。二人の仲には一人の子――男の子があった。しかるにお園は結婚後四年目に病気になり死んでしまった。
「葬られたる秘密」小泉八雲(青空文庫)
末尾部(原文より)
和尚が梯子段を降りて来た時、夜は明けかけており、一家の人々は心配して下で待っていた。『御心配なさるな、もう二度と影は顕れぬから』と和尚は一同に向って云った。果してお園の影は遂に顕れなかった。 手紙は焼き棄てられた。それはお園が京都で修業していた時に貰った艶書であった。しかしその内に書いてあった事を知っているものは和尚ばかりであって、秘密は和尚と共に葬られてしまった。
「葬られたる秘密」小泉八雲(青空文庫)
原文を読む
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