クラリモンド(ゴーティエ)のあらすじ・登場人物
老僧が明かす一度きりの恋
- 怪奇
- 恋愛
- 翻訳
- 文字数
- 31,374字
- 読了目安
- 約1時間3分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
フランス・ロマン派の作家テオフィル・ゴーティエが1836年に発表した短編(原題 La Morte amoureuse)を、ラフカディオ・ハーンの英訳 Clarimonde から芥川龍之介が訳したもの。東京帝国大学在学中の1914年(大正3年)10月、新潮社の新潮文庫『クレオパトラの一夜』に収められたが、そこでは友人の久米正雄の訳として発表され、現在は芥川の全集に収められている。六十六歳になる僧が若い聞き手に、生涯ただ一度の恋を打ち明けるという形の物語で、司祭に叙される日の教会で見知らぬ美しい女を目にしたところから語りが動き出す。熱を帯びた告白の語り口が、女の装いや部屋の調度をこまやかに描きだす。
あらすじ
六十六歳になる「わし」(ロミュアル)は、若い聞き手に三年あまりにわたる不思議な体験を打ち明ける。幼いころから聖職を志し、女というものを知らずに育った彼は、二十四歳で司祭に叙される式の最中、教会でこの世のものとは思えぬほど美しい女を見て心を奪われる。女はまなざしで、自分のものになれば神より幸福にしてみせると語りかけるが、彼は誓いを終えてしまい、教会を出る彼の手を女の冷たい手がとらえて「不仕合せな方ね」とささやく。僧院長セラピオンは彼の動揺を見抜き、彼を田舎の教区へ連れて行く途中、日の光を受けた宮殿を指して、あれは娼婦クラリモンドの宮殿だと教える。一年ののち、彼は夜中に訪ねてきた男に迎えられて臨終の貴婦人のもとへ急ぐが、女はすでに息絶えており、それはクラリモンドであった。思わず死者に口づけすると、女は一瞬よみがえって彼を抱きしめ、ふたたび息を引き取る。その後、寝ついた彼のもとに死んだはずのクラリモンドが現れ、それ以来、彼は昼は貧しい田舎の司祭、夜は夢の中でヴェネツィアに暮らす若い貴族ロミュアル卿という二重の生活を送るようになる。やがて病み衰えたクラリモンドが、彼の指の傷から流れた血をすすってたちまち生気を取り戻したことから、彼は女が人の血で命をつないでいることを知るが、それでも愛するのをやめられない。二重の生活に疲れはてた彼は、セラピオンに伴われて夜の墓地へ行き、クラリモンドの墓をあばく。柩の中の女は大理石のように白く、唇の端に血の滴が光っていたが、セラピオンが聖水を注ぐと、たちまち塵と朽ちた骨に変わった。その次の夜、クラリモンドは一度だけ現れて彼を責め、別れを告げて消える。老いた彼は、いまも彼女を惜しんでいると語り、決して女の顔を見るなと聞き手を戒める。
登場人物
- わし(ロミュアル) 若い日の恋を語る六十六歳の僧
- クラリモンド 叙階式の日に教会で出会う美しい女
- セラピオン ロミュアルを見守る厳格な僧院長
- バルバラ ロミュアルの牧師館の家事をする老婆
冒頭部(原文より)
兄弟、君はわしが恋をした事があるかと云ふのだね、それはある。が、わしの話は、妙な怖しい話で、わしもとつて六十六になるが、今でさへ成る可く、其記憶の灰を掻き廻さないやうにしてゐるのだ。君には、わしは何一つ分隔てをしないが、話が話だけに、わしより経験の浅い人に話しをするのは、実はどうかとも思つてゐる。何しろわしの話の顛末は、余り不思議なので、わしが其事件に現在関係してゐたとは自分ながらわしにも殆ど信じる事が出来ぬ。わしは三年以上、最も不可思議な、そして、最も奇怪な幻惑の犠牲になつてゐたのである。
「クラリモンド」ゴーティエ(青空文庫)
末尾部(原文より)
あゝ、彼女の言は正しかつた。わしは一度ならず彼女を惜んだ。いや今も彼女を惜んでゐる。わしの霊魂の平和は、高い代価を払つて始めて贖ふ事が出来たのである。神の愛は彼女のやうな愛を償つて余りある程大きなものではない。兄弟よ、之がわしの若い時の話なのだ。忘れても女の顔は見ぬがいゝ。そして外へ出る時には、何時でも視線を地におとして歩くがいゝ。何故と云へば、如何に信心ぶかい、慎みぶかい人間でも、一瞬間の誤が、永遠を失はせるのは容易だからである。
「クラリモンド」ゴーティエ(青空文庫)
原文を読む
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