うづしほ(ポー)のあらすじ・登場人物
大渦巻を語る白髪の漁師
- 冒険
- 怪奇
- 翻訳
- 文字数
- 20,256字
- 読了目安
- 約41分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
エドガー・アラン・ポーが1841年に発表した短編「A Descent into the Maelström」を、森鷗外が訳して1910年(明治43年)8月の「文藝倶楽部」に載せたもの。ノルウェー北部ロフォーテンの断崖の上で、一日にして黒髪が白髪になったという漁師が、案内してきた旅の「僕」に、眼下の海峡に生じる大渦巻モスコエストロオムで遭った出来事を語る。崖の縁に腹這いになって震える語り手の描写から始まり、老漁師の長い語りへと移る構成で、鷗外は漁師の言葉を「ございます」調の丁寧な口語で写している。佐々木直次郎訳「メールストロムの旋渦」と同じ原作の別訳にあたる。
あらすじ
「僕」はノルウェーの北緯六十八度、ロフォーテンの高い岩山の頂に、土地の老人に連れられて登る。老人は、三年ほど前に妙な目に遭い、六時間のあいだ死を覚悟したせいで、一日で髪が白くなり手足も神経も弱ってしまったのだと話す。眼下の海峡では潮の満ち引きにつれて恐ろしい大渦巻が生まれ、轟音とともに海面が巨大な漏斗のように落ちくぼんでゆく。老人はかつて兄と弟との三人で小さな船を持ち、ほかの漁師が近づかない渦の向こうの漁場へ、潮の止まる短い時刻を見はからって通っていた。ある日、漁の帰りに未曾有の暴風に襲われ、帆柱は折れて、柱に体を縛りつけていた末の弟は柱もろとも飛ばされてしまう。しかも老人の時計は止まっており、潮の静まる時刻はとうに過ぎていた。兄と老人を乗せた船は、渦巻に引き込まれる。漏斗の壁を回りながら下ってゆくうちに、老人は恐怖が薄れて、まわりの漂流物を観察しはじめ、円筒の形をしたものほど沈むのが遅いことに気づく。そこで樽に体を縛りつけて海へ飛び込むが、兄はその意味を解さず船に残る。やがて船は渦の底へ消え、潮が鎮まるとともに渦巻は消え去り、樽につかまった老人は浮き上がって岸辺へ流され、仲間の漁師に救われる。だが一夜で髪が白くなった彼を誰も見分けられず、話を信じる者もいなかった。
登場人物
- 老漁師 ロフォーテンの漁師。大渦巻に呑まれ、一日で髪が白くなった体験を語る
- 僕 語り手。老人に案内されて断崖の上に登る旅人
- 兄 老人とともに船に乗っていた兄
冒頭部(原文より)
二人で丁度一番高い岩山の巓まで登つた。老人は数分間は余り草臥れて物を云ふことが出来なかつた。 とう/\かう云ひ出した。 「まだ余り古い事ではございません。わたくしは不断倅共の中の一番若い奴を連れて、この道を通つて、平気でこの岩端まで出たものです。だからあなたの御案内をしてまゐつたつて、こんなに草臥れる筈ではないのです。
「うづしほ」ポー(青空文庫)
末尾部(原文より)
わたくしは一つの船に助け上げられました。そのときはがつかり致して、もうなくなつた危険の記念に対して、限りのない恐怖を抱いてゐました。わたくしを船に救ひ上げた人達は、昔からの知り合で、毎日顔を見合つてゐる中であつたのに、その人達はわたくしの誰だといふことを認めることが出来ませんでした。丁度あの世から帰つて来た旅人に出逢つたやうな風でございました。その筈でございます。一日前まで墨のやうに黒かつたわたくしの髪が只今御覧なさるやうに真白になつてゐたのでございます。顔の表情もそのときまるで変つたのださうでございます。わたくしはその人達にこの経験談を致して聞かせました。併し誰も信じてくれるものはございませんでした。その経験談を只今あなたにも致したのでございます。多分あなたはロフオツデンの疑深い漁師とは違つて、幾分かわたくしの詞を信じて下さるだらうと存じます。」
「うづしほ」ポー(青空文庫)
原文を読む
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