モルグ街の殺人事件(ポー)のあらすじ・登場人物
世界最初の推理小説
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 35,582字
- 読了目安
- 約1時間11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
エドガー・アラン・ポーが1841年に発表した「The Murders in the Rue Morgue」を、佐々木直次郎が訳した一編(第一書房『エドガア・アラン・ポオ小説全集』所収)。密室で惨殺された母娘の謎を、名探偵オーギュスト・デュパンが卓越した分析と推理で解き明かす。密室の謎と観察・推理を組み合わせ、世界最初の推理小説とされる記念碑的作品である。同じ作品は森鴎外も「病院横町の殺人犯」として訳しており、訳文の対照も興味深い。
あらすじ
パリに遊学中の「私」は、稀覯本を探す古本屋で、名門に生まれながら落魄したオーギュスト・デュパンと知り合う。並外れた観察力と分析力をもつこの青年に惹かれ、二人は寂れた館を借りて世を避けるように同居する。ある朝、新聞がモルグ街の凄惨な事件を報じる。四階の一室で、レスパネエ夫人とその娘が惨殺された。娘は暖炉の煙突に頭を下にして押し込まれ、母は裏庭でほとんど首を切り離された姿で見つかる。部屋は内側から施錠され、多額の金貨は手つかず。現場に駆けつけた人々は階段で二つの荒々しい声を聞いたが、その一方が何語であったかについては、国籍の異なる証人がそれぞれ「自分の知らぬ外国語だった」と食い違う証言をする。無実の銀行員が逮捕される中、デュパンは誰もが不可能と決めてかかった窓からの脱出経路と、人間離れした怪力・粗い毛・大きな指の跡に着目し、犯人が人ではないことを見抜く。彼は新聞に広告を出して飼い主の水夫を誘い出し、逃げ出したオランウータンの仕業であった真相を突き止める。
登場人物
- オーギュスト・デュパン 分析と推理で事件を解く没落名家の青年
- 私 デュパンと同居する語り手
- レスパネエ夫人 モルグ街の一室で娘とともに殺される
- 水夫 逃げ出したオランウータンの飼い主
冒頭部(原文より)
分析的なものとして論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんど分析を許さぬものなのである。ただ結果から見て、それらを感知するにすぎない。そのなかでもわかっていることは、精神の諸作用を過分に身につけている人にとっては、これこそなによりも生き生きとした楽しみの源泉である、ということだ。ちょうど、強健な人が筋肉を働かせる運動を喜んで自分の肉体的能力を誇るのと同じように、分析家はものごとを解き明かす知的活動に熱中する。彼は、この才能を発揮できることなら、どんなつまらない仕事でも楽しんでやるのだ。彼は、謎や、難問や、象形文字が好きで、凡人の理解力では超自然とも見えるほどの明敏さで、それらを解き明かす。しかも、彼がありとあらゆる方法を尽して得た結論は、実のところ、まるで直観にしか見えないのだ。
「モルグ街の殺人事件」ポー(青空文庫)
末尾部(原文より)
「なんとでも言わしておくさ」べつに返事をする必要もないと思っていたデュパンはこう言った。「勝手にしゃべらせておくさ。それでご自分の気が安まるだろうよ。僕は奴さんの城内で奴さんをうち負かしてやったのだから満足だ。だが、あの男がこの怪事件を解決するのにしくじったということは、決して彼自身が思っているような不思議な事がらじゃない。なにしろ、実際、わが友人の総監は少々ずるすぎて考え深くないからね。彼の知恵には雄蕊がないのだ。女神ラヴェルナの絵みたいに、頭ばかりで胴がない。――あるいは、せいぜい鱈みたいに頭と肩ばかりなんだ。しかしまああの男はいい人間だよ。僕はことに、あの男が利口そうな口を利くことに妙を得ているところが好きなんだ。そのおかげで奴さんは俊敏という名声を得ているんだがね。奴さんのやり口というのは『あるものを否定し、ないものを説明する』というのさ」
「モルグ街の殺人事件」ポー(青空文庫)
名文
分析的なものとして論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんど分析を許さぬものなのである。
ポー『モルグ街の殺人事件』の書き出し。「分析」の才能を論じる前置きから、探偵デュパンの推理譚が始まる、推理小説の原点となる一節。
原文を読む
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