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株式仲買店々員(コナン・ドイル)のあらすじ・登場人物

うますぎる転職話の裏

  • ミステリ
  • 翻訳

コナン・ドイル 訳者 三上於菟吉 1930年(昭和5年)2月

文字数
19,776字
読了目安
約40分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

結婚してパディントンで開業医となったワトソンを、久しぶりにホームズが訪ね、バーミンガムへの小旅行に誘う。依頼人は、ロンドンの一流の株式仲買店に採用が決まった直後、破格の条件で見知らぬ会社に引き抜かれた若い事務員で、うますぎる話の裏にあるものを探る一篇である。原題は「The Stockbroker's Clerk」で、1893年3月に『ストランド・マガジン』に発表され、短編集『シャーロック・ホームズの思い出』に収められた。新しいスリッパの焦げ跡から、ワトソンが最近風邪をひいたと見抜く冒頭の推理も楽しい。三上於菟吉の訳で、平凡社「世界探偵小説全集」の一冊(1930年)に収められた。

あらすじ

勤め先の破産で職を失った事務員ホール・ピイクロフトは、ようやくロンバード街の大きな株式仲買店モウソン・ウィリアム商会に採用が決まる。その夜、アーサー・ピナーと名のる男が訪ねてきて、株の相場を暗記している彼の腕前をほめちぎり、兄ハリーが専務を務める「フランス中部鉄器株式会社」の営業支配人として年五百ポンドで迎えたいと持ちかける。ピナーは前払いの百ポンドを渡し、承諾の一筆を書かせ、モウソンには断りの手紙も出さないよう言い含める。翌日バーミンガムの仮事務所で会った兄のハリーは、アーサーと瓜二つで、がらんとした部屋でパリの人名録から鉄器商を書き抜く仕事を与えた。ところがハリーが笑ったとき、アーサーと同じ金の詰め物の歯が見え、ピイクロフトは二人が同一人物だと気づく。ホームズとワトソンは職探しの友人を装ってピイクロフトと事務所を訪ねるが、ピナーは夕刊を手に恐怖の色を浮かべ、奥の部屋に入って首を吊ってしまう。ワトソンの手当てで息を吹き返した男の言葉から、ホームズは夕刊を調べる。そこには、モウソン商会に雇われたばかりの新しい事務員「ホール・ピイクロフト」が見張りを殺して有価証券を奪おうとし、逮捕されたと報じられていた。一味は、ピイクロフトの筆跡の見本を手に入れて弟を彼になりすまさせ、本人をバーミンガムに足止めしていたのである。兄は、弟の逮捕を知って絶望したのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 結婚してからほどなく、私はパッディングトン区にお得意づきの医院を買った。私はその医院を老ハルクハー氏から買ったのであるが、老ハルクハー氏は一時はかなり手広く患者をとっていたのであった。しかし寄る年波とセント・ビタス・ダンスをする習慣があったためすっかりからだを悪くしたので、だんだんお客をなくして淋れてしまった。世間の人と云うものは、病人を治療する人間は、その人自身が健康でなくてはならない。そしてもしその人が病気になっても自分の医薬ではなおることが出来ないのを見ると、その人の治療上の力を疑いはじめる、と云うそうした傾向を持っているものであるが、これはむしろ当然な話である。つまりそれと同じような理由で、ハルクハー氏は次第に医院をさびれさせていって、私がその医院を買うまでに一年に千二百人からあった患者が三百人ほどもないくらいにまで減ってしまった。けれども私は、私の若さと体力とに自信があったので、二三年の間には昔と同様に繁盛するだろうと確信していた。  私は仕事を始め出してから三ヶ月の間、最も熱心に注意深く働いた。そのため、私はベーカー街に行くには余りにいそがしすぎて、ほとんどシャーロック・ホームズと会わなかった。そして彼自身も、自分の職業上の仕事以外には、どこへも出かけなかった。それ故、六月のある朝、朝飯をすましてブリティッシ・メディカル・雑誌を読んでいると、玄関のベルが鳴り、つづいて私の親友の大きな甲高い調子の声がきこえて来たので、私はびっくりした。

「株式仲買店々員」コナン・ドイル(青空文庫)

末尾部(原文より)

「そうだ、僕たちはその行衛について、幾らでも警察を助けてやることが出来るのだ」  と、ホームズは、窓ぎわに目ばかり光らせているその男を見やりながら云った。 「人間の性質と云うものは不思議に入り組んだものだ。君は、強盗や人殺しでさえも、彼の兄弟の首に縄がかかったと云うことを知って、自殺する気になるほどな肉親の愛情を起こすものであることが、分かったろう。しかしもう私たちは私たちの行動について躊躇しなくてもよい。私とワトソンとはこの男の番をしてますから、ピイクロフトさん、あなたはどうか警察へこのことを知らせにいって下さいませんか」

「株式仲買店々員」コナン・ドイル(青空文庫)

原文を読む

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