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サレーダイン公爵の罪業(チェスタトン)のあらすじ・登場人物

鏡の家に招かれた二人

  • ミステリ
  • 翻訳

チェスタトン 訳者 直木三十五 1930年(昭和5年)

文字数
19,533字
読了目安
約39分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

チェスタトンのブラウン神父もので、『ブラウン神父の童心』(1911年)に収められた短編(原題「The Sins of Prince Saradine」)。休暇をとった探偵フランボーは、ブラウン神父を乗せた小舟でノーフォークの水郷をさかのぼる。目当ては、泥棒だった昔に「堅気になったら訪ねてほしい」という名刺をくれたサレーダイン公爵である。葦に囲まれた島の、壁に鏡を連ねた細長い家で、二人は主人の帰りを待ちながら、陰気な執事や家政婦から公爵兄弟の不穏な噂を聞く。月夜の川旅で始まり、夕暮れの島で緊迫した場面へ移る構成で、水辺の風景描写が物語の雰囲気を作っている。直木三十五の訳で、1930年刊の平凡社『世界探偵小説全集』第九巻「ブラウン奇譚」に収められた。

あらすじ

フランボーは、泥棒時代に受け取った一枚の名刺を思い出す。そこにはサレーダイン公爵の名で、堅気になったら訪ねてほしい、探偵をまいて見当違いの者を捕まえさせる手際は見事だった、と書かれていた。公爵は若いころ人妻と駆け落ちし、夫がシチリアの崖から身を投げたという醜聞の持ち主である。フランボーとブラウン神父は小舟でノーフォークの水郷を訪ね、葦に囲まれた島の「蘆の家」に着く。留守を預かる陰気な執事ポールは主人の弟ステファン大尉が兄から金を搾り取ったと語り、家政婦アンソニー夫人は兄弟のどちらも善人ではないとささやく。やがて帰宅した公爵は愛想よく客をもてなすが、神父はその顔にどこか見覚えがある気がする。夕方、六人の漕ぎ手を連れた若者アントネリが島に乗り込み、公爵が自分の父を殺し母を奪ったとして決闘を挑む。家政婦はアントネリの母だった。執事は助けを呼ぶと言ってただ一艘の小舟で漕ぎ去り、決闘の末、公爵は剣に貫かれて死ぬ。アントネリは死刑を待つだけだと言って口を閉ざす。ところが釣りから戻ったフランボーと神父が窓からのぞくと、執事ポールが主人然として晩餐を味わっていた。彼こそ本物のサレーダイン公爵で、殺されたのは弟ステファンだった。兄は、ゆすりを続ける弟と、父の仇を追うアントネリという二人の敵に挟まれ、弟に家と公爵の役を譲って自分は執事になりすまし、二人をぶつけ合わせたのである。神父は、その策はフランボーの手口――探偵をまいて見当違いの者を捕まえさせる――を借りたものだと言う。二人は夜の川を下り、善良な人々の住む村々へ帰っていく。

登場人物

冒頭部(原文より)

 フランボーがウェストミンスターにある彼の探偵事務所の仕事を一月休んだ時に、彼は撓舟のように小さい、一艘の小型の帆艇に乗って旅に出た。東部諸州の小さい川を通った時、それはあまりに小さいので、ちょうど魔法船が陸の牧場や麦畑の中を帆走って行くように見えた。舟は二人乗として快適なものであった。そして必要品を置くに足るだけの場所のみで、フランボーはそこに自分の哲学から割出して必要と考えた品々を蓄えていた。それ等は四つの主要部分に分類することが出来た――食いたい時の用意として鮭の鑵詰、まさかの場合の用意として装填された何挺かの短銃、気が遠くなるようなことがないとも限らんというので一罎のブランデー酒、それからヒョコリ死なないともかぎらないというので一名の坊さん。この軽い荷物を積載して彼はノーフォーク州の小川から小川へと、最後には『広沢』地方(英国東部にて河水が湖のようにひろがりたる所)へ達するようにゆるゆると廻って行った、行く行くあるいは水郷の庭園や牧場、あるいは河水に姿をうつす館や村落の画のような景色を賞し、またあるいは池沼幽水に釣糸を垂れて、岸辺に道草をくいながらの旅であった。

「サレーダイン公爵の罪業」チェスタトン(青空文庫)

末尾部(原文より)

 だがブラウンは首をふるばかりで唖者のように黙っていた。夕闇を通して山櫨の匂いと果樹園の匂いとが二人の鼻に迫った。で天気が風ばんで来た事をわかった。次の瞬間、風が小舟をゆるがせ、帆をふくらませた。そして二人は蜿々たる流れの下の方へ、幸福なる土地、善良なる人の子の住む村々の方へと運んで行った。

「サレーダイン公爵の罪業」チェスタトン(青空文庫)

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