黄色な顔(コナン・ドイル)のあらすじ・登場人物
窓に浮かぶ黄色い顔
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 21,178字
- 読了目安
- 約42分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
早春の散歩から戻ったホームズとワトソンの部屋に、パイプを置き忘れた客が取り乱した様子で戻ってくる。ロンドン郊外ノーブリーに住む男が、仲むつまじかった妻の隠しごとと、隣の空き家に越してきた住人の窓に浮かぶ気味の悪い黄色い顔について相談する一篇である。原題は「The Yellow Face」で、1893年2月に『ストランド・マガジン』に発表され、短編集『シャーロック・ホームズの思い出』に収められた。忘れ物のパイプ一本から持ち主の体格や利き手を言い当てる冒頭の推理も見どころ。三上於菟吉の訳で、平凡社「世界探偵小説全集」の一冊(1930年)に収められた。
あらすじ
ホップ問屋のグラント・マンローは、アメリカで先夫を疫病で亡くしたというエフィと結婚し、ノーブリーで三年間、幸福に暮らしてきた。ところが妻は使い道を言わずに百ポンドを求め、やがて近くの空き家に誰かが越してくると、夜中の三時にこっそり家を抜け出す。その家の二階の窓には、死人のような黄色いこわばった顔がのぞいていた。翌日、マンローはその家から出てくる妻と鉢合わせし、二度と行かないと約束させるが、妻は約束を破る。踏みこんだ家には人の姿はなく、二階の寝室に妻の肖像画が飾られていた。相談を受けたホームズは、アメリカで生きていた妻の先夫が彼女を脅迫しているのだろうと推理し、住人が戻ったら知らせるよう告げる。夜、ホームズとワトソンを伴って家に踏みこんだマンローが見たのは、黄色い仮面をつけた小さな女の子だった。エフィの先夫ジョン・ヘブロンはアフリカ系の弁護士で、二人のあいだに生まれた娘ルーシーは、病弱のためアメリカに残されていた。夫に打ち明ける勇気のなかったエフィは、娘に一目会いたい一心で乳母とともに呼び寄せ、人目を避けるため顔を隠させていたのだった。マンローはしばらく黙ったのち、娘を抱き上げて口づけし、妻に手を差し出して家へ連れ帰る。推理を外したホームズは、自分が慢心していると思ったら「ノーブリー」とささやいてくれとワトソンに頼む。
登場人物
- グラント・マンロー ノーブリーに住むホップ問屋。妻の秘密に悩む
- エフィ マンローの妻。アメリカで先夫と死別した
- シャーロック・ホームズ マンローの相談を受ける名探偵
- ワトソン 語り手
冒頭部(原文より)
それは早春のある日のことであったが、彼はノンビリした気持ちで私と公園へ散歩に出かけた。楡の木は若芽を吹き出しかけ、栗の木の頂きには若葉が出はじめていた。私たちは、特に話さなければならないような話題もなかったので、碌に口もきき会わずに二時間近くブラブラした。そして再びべーカー通りに帰って来たのは、もう五時近くであった。 「壇那さま、お留守にお客さまがお見えになりました」 と、彼が入口の戸をあけると、給仕の子供が云った。 ホームズは非難するかのように私をジロッと見た。 「少し散歩が長すぎたな」 と云って、それから給仕に向って云った。 「それで、そのお客さまは帰っちまったのか?」 「ええ」 「中へ這入ってお待ちするようには言わなかったのかね?」 「いえ、中へお通ししたんです」 「どのくらい待ってたのかね」 「三十分ばかり。――でも、大変せっかちな壇那でしてね、ここにいらっしゃる間も始終、歩き廻ったり足踏みをしたりしていらっしゃいました。私、戸の外でお待ちしておりましたもので、よくそれが分りましたよ。けれどもそのうちにとうとう外へ出て来て、「帰って来ないようじゃないか」とおっしゃるんです。ですから私は申し上げました。「ほんのもう少しお待ちになって下さい」って。すると「じゃ、じき戻って来るよ」と云って出ていっておしまいになるんでしょう。それから私、まだいろいろ申上げたんですけれど、でもお引き止め出来ませんでした」 「よしよし、結構結構」 とホームズは云って、私達は部屋の中に這入った。
「黄色な顔」コナン・ドイル(青空文庫)
末尾部(原文より)
二分間ばかり経った。そしてグラント・マンローは沈黙を破った。その彼が返事をした瞬間は、私が考え起すことのすきな時である。――彼はその可愛い子供を抱き上げると、接吻した。そしてそれから、静かに子供を抱いたまま、他の片方の手を彼の妻のほうにさし出しながら、戸口のほうへ向き返った。 「私たちは、うちへいってもっともっと気持ちよく話し合おう」 と彼は云った。 「私はあまりいい人間じゃなかった、ねえエフィ。けれど私は、お前が信じていてくれたよりは、もう少しいい人間だと思っているよ………」 ホームズと私とは彼等について、例の細い路を下っていった。私の友達はそこまで来ると、私の袖を引っぱった。そして 「ねえ君、もう僕たちはノーブリーにいるよりもロンドンに帰ったほうがよさそうだね」 と云った。 こうしてその日は、夜更けて、蝋燭を灯しながら寝台に行くまで、ホームズはもう再びものを云わなかった。 「ワトソン君」 と、彼は寝室にいってからこう云った。 「これからもし私が、余り自分の力に頼りすぎていると、君が気づいた時は、そしてまた、事件を余り考えないで扱おうとしているような様子が目についたら、どうか遠慮なく、私の耳へ「ノーブリー」とささやいてくれたまえ。そうすれば、僕は君に永久に恩をきるよ……」
「黄色な顔」コナン・ドイル(青空文庫)
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