作男・ゴーの名誉(チェスタトン)のあらすじ・登場人物
城に散らばる奇妙な遺留品
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 15,005字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
チェスタトンのブラウン神父もので、『ブラウン神父の童心』(1911年)に収められた短編(原題「The Honour of Israel Gow」)。スコットランドの谷の奥に建つグレンジル城で、変人ぞろいの家系の最後の当主グレンジル伯が誰にも姿を見せないまま亡くなり、耳の遠い作男ゴーがひとりで主人を葬っていた。調べに来た探偵フランボーとロンドン警視庁のクレーヴン警部は、城内から台座を外された宝石、むき出しの嗅ぎ煙草、時計の歯車、燭台のない蝋燭といった、脈絡のない品々を集めていた。駆けつけたブラウン神父は、その関係をもっともらしく説明してみせては自ら打ち消す。嵐の夜の古城と墓地を舞台に、推理を重ねる遊びそのものを見せる一編で、直木三十五の訳で1930年刊の平凡社『世界探偵小説全集』第九巻「ブラウン奇譚」に収められた。
あらすじ
スコットランドのグレンジル城で、最後の当主グレンジル伯が死んだらしいという噂が立つ。伯爵は長く誰にも姿を見せず、ただひとりの召使いで耳の遠い作男イズレール・ゴーが、主人を棺に納めて丘の墓地に葬っていた。調べに来たフランボーとクレーヴン警部は、城内から奇妙な品々を集めていた。台座から外された宝石の山、容器なしで置かれた嗅ぎ煙草、時計の歯車やぜんまい、燭台のない蝋燭、芯だけの鉛筆、頭の金具を外した杖、ところどころ切り抜かれた古い祈祷書。ブラウン神父はそれらを結ぶ説明をいくつも即興で作って見せるが、どれも本当ではないと言う。祈祷書の神の御名と幼子キリストの光輪が切り取られているのを見た神父は悪魔的なものを感じ、嵐の夜に墓を暴かせる。棺の骸骨には首がなかった。翌朝、神父はゴーの畑の掘り方が一か所だけおかしいのに気づき、そこから伯爵の頭蓋骨が掘り出される。フランボーが口にした「歯医者」という言葉で、神父はすべてを悟る。伯爵は人間の不正直に絶望し、自分の取り分以上を決して取らない正直者がいれば城の金を残らず与えると誓っていた。ある日、電報を届けに来た若者ゴーが、誤って渡された金貨のつりを律儀に返しに来たため、伯爵は彼を召使い兼相続人とした。ゴーは遺言どおり城の「金」だけを残らず取り、金でないものには手を触れなかった。宝石や煙草や歯車は金の台座や箱や時計から外された残りで、祈祷書の金箔の部分も切り取られた。頭蓋骨を掘り出したのは金歯を取るためだった。その朝フランボーは、ゴーが金歯を抜いた頭を墓へ戻しているのを見かける。
登場人物
- ブラウン神父 グラスゴーの用事のついでに城を訪れた司祭
- フランボー 元大泥棒の素人探偵。伯爵の死の調査に来ている
- クレーヴン警部 ロンドン警視庁の探偵
- イズレール・ゴー グレンジル城のただひとりの召使い。耳が遠く、薄鈍と思われている
- グレンジル伯 オージルビー家の最後の当主。人嫌いで城にこもっていた
冒頭部(原文より)
嵐吹く銀緑色の夕方、灰色のスコッチ縞の着衣につつまれた師父ブラウンは、灰色のスコットランドのある谷間の涯に来た、そして奇妙なグレンジル城を仰ぎ見た。城はその窪地の一方の端を袋町のように塞いでいた、それがまた世界の涯のように見えた。嶮しい屋根や海緑色の石盤瓦茸小塔の聳え具合が仏蘭西蘇格蘭折衷式の城の様式なので、城は師父ブラウンのような英蘭人にはお伽話に出て来る魔女のかぶる陰険な尖り帽を思い出させるのであった。そして周囲にゆらいでいる松林は小塔の緑色と対比して無数の渡鳥の群のように黒く見えた。こうした人を夢幻の世界か、または睡たげな魔界のような雰囲気の中に惹込むのは、ただこの景物ばかりがさせる技ではなかった、なぜならば、スコットランドの貴族の家柄に、人間並をはるかに越して濃厚に纏綿しているところの高慢と狂気と不思議な悲哀との雲がここにも絡みついているからであった。スコットランドは遺伝という毒薬を二服持っている、貴族という血の意識とカルヴィン教徒の因襲の意識とがそれだ。
「作男・ゴーの名誉」チェスタトン(青空文庫)
末尾部(原文より)
そして、実際、フランボーがその朝、例の小山を通りかかった時、彼は例の不思議な人物、正直一轍の吝嗇漢が一度汚した墓をまた堀返しつつあるのを見かけたのであった、格子縞のスコッチラシャを頸のまわりで山風にひるがえしながら、そしてジミな絹帽を頭上にいただいて。
「作男・ゴーの名誉」チェスタトン(青空文庫)
原文を読む
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