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入院患者(コナン・ドイル)のあらすじ・登場人物

怯える入院患者の秘密

  • ミステリ
  • 翻訳

コナン・ドイル 訳者 三上於菟吉 1930年(昭和5年)2月

文字数
22,789字
読了目安
約46分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

雨の十月の夜、ロンドンの散歩から戻ったホームズとワトソンを、神経の病を専門とする若い医師が待っていた。開業の資金を出した謎めいた後援者が「入院患者」として医院に住みこんでいるが、その男がなにかにひどく怯えはじめたという。原題は「The Resident Patient」で、1893年8月に『ストランド・マガジン』に発表され、短編集『シャーロック・ホームズの思い出』に収められた。この訳では、ホームズがワトソンの視線の動きをたどって胸の内を読み当てる場面が冒頭に置かれている。三上於菟吉の訳で、平凡社「世界探偵小説全集」の一冊(1930年)に収められた。

あらすじ

若い医師パーシー・トレベリアンは、優秀ながら開業資金がなかったところへ、見知らぬ紳士ブレシントンから、家や馬車の費用をすべて出す代わりに稼ぎの四分の三を受け取るという申し出を受ける。ブルック街の医院は繁盛し、ブレシントン自身は心臓が弱いという理由で「入院患者」として住みこんでいた。数週間前からブレシントンは何かに怯えて閂を増やし、外を見張るようになる。そんなとき、ロシアの貴族を名のる老人が、癲癇の持病を診てほしいと息子に付き添われて来院し、診察中に発作を起こしたかと思うと、医師が薬を取りに出たすきに父子とも姿を消した。翌日ふたたび現れた父子が帰ったあと、散歩から戻ったブレシントンは自室に他人の足跡を見つけて逆上する。ホームズは、ブレシントンが心当たりを隠していると見抜き、真実を話さなければ力にはなれないと告げて引き上げる。翌朝、ブレシントンは自室で首を吊って死んでいた。ホームズは、葉巻の吸いさしや鍵穴の傷、階段の足跡から、三人の男が手引きした給仕の少年の助けで忍びこみ、自殺に見せかけて彼を吊るしたのだと見抜く。ブレシントンの正体は、かつて銀行の留守番を殺して金を奪った強盗団の一人シュウトンで、仲間を密告して自分だけ罪を逃れ、首謀者は死刑となっていた。刑期を終えた残る三人が、裏切り者に復讐したのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 それは十月の陰鬱な雨の日であった。私達は鎧戸を半分とざして、ホームズはソファの上に横わりながら、その朝郵送された一通の手紙をくり返し読んでいた。――私はインド勤務のおかげで、寒さよりは暑さのほうがしのぎよく、九十度ぐらいの温度は苦しくはなかった。――しかし読みつづけていた新聞はつまらなかった。議会が初まっていた。人々はみんな町から出かけていっていたが、私はニュウ・フォレスト森林の中にある草原や、サウス・シーの海岸にある砂浜にあこがれていた。帳尻の合わなくなった銀行勘定が、私に祝祭日をのばさなくてはならないようにしてしまったのである。――けれどもホームズには田舎も海も少しも魅力を持ってはいなかった。彼は百万の大衆の真ただ中に寝ころんで、空想と推理の糸を自由自在にひろげたりたどったりして、いろいろな未解決な問題に暗示を与えたりすることのほうを愛していた。自然の鑑賞力、そう云うものは彼のたくさんの才能の中にも座をしめることは出来なかったのだ。だから彼が田舎へ行くと云うことも、結局は都会の犯罪をさがすため、田舎の彼の兄弟の跡をつけて行くと云うような場合にすぎないのであった。

「入院患者」コナン・ドイル(青空文庫)

末尾部(原文より)

 以上の話が、ブルック・ストリートの医者とその家の入院患者とに関係した事件のあらましである。――その夜から三人の殺人犯は、官憲によって探索されたが、なかなかつかまらなかった。が、やがて、彼等がノラ・クリーナ号と云うボロボロの船の乗客の間にまじって、スコットランドの波止場に上陸した時、とうとう捕えられてしまった。その船はつい二三年前、オポルトウの北方数哩のポルトガルの沖合いで沈んでしまった。――それから例の案内係のボーイは、証拠不充分と云うので放免された。すなわちこれがいわゆる『ブルック・ストリートの秘密』として有名な事件のあらましなのであって、今日までまだ公に発表されたことのないものである。

「入院患者」コナン・ドイル(青空文庫)

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