臨時急行列車の紛失(コナン・ドイル)のあらすじ・登場人物
白昼の線路から列車が消えた
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 14,359字
- 読了目安
- 約29分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
アーサー・コナン・ドイルの短編で、原題は「The Lost Special」。シャーロック・ホームズの登場しない独立した作品で、この訳は1921年(大正10年)に雑誌「新青年」に新青年編輯局の訳として掲載された。リヴァプールで中米から来た紳士が仕立てさせた臨時急行列車が、途中の駅を通過したあと、次の駅に着く前に機関車ごと姿を消す。駅どうしの電報のやりとり、鉄道会社の調査報告、新聞に載った論客の推理と、記録をつなぎ合わせる形で事件が語られ、最後に死刑囚の告白が置かれる。大正期の翻訳らしい漢語の多い文体で、列車消失という大がかりな謎が描かれる。
あらすじ
六月三日、中米から着いたばかりの紳士ルイ・カラタールは、パリへ急ぐため、リヴァプールで臨時急行列車を仕立てさせる。手首に文書袋を革紐でつないだ大男の従者ゴメズが同行し、同乗を願い出たホレース・ムーアという紳士は断られる。列車は途中のケニヨン駅を通過したが、次のバートン・モス駅には到着せず、機関手スレーターの死体だけが線路脇の藪で見つかる。沿線の炭坑の引込線も調べられるが、列車の行方はわからない。一か月後、車掌マックファースンの妻のもとにニューヨークから送金入りの手紙が届くが、本人は姿を見せなかった。八年後、マルセイユで死刑を待つヘルバルト・ドゥ・レルナークの告白が新聞に載り、真相が明らかになる。カラタールの渡仏で失脚を恐れたパリの大物たちに雇われたレルナークは、英国の鉄道に通じた男と組み、車掌と火夫を買収していた。ムーアと名乗った男もその一味だった。彼らは本線から外されていた廃坑ハートシーズへの引込線をひそかにつなぎ直し、列車をそこへ引き込んだ。火夫は機関手を麻酔させようとして失敗し、スレーターは機関車から転落死した。乗務員たちは全速で走るよう機関車を仕掛けて飛び降り、列車はカラタールとゴメズを乗せたまま竪坑へ突っ込んで奈落に消えた。一味は線路を元に戻して証拠を消したのである。レルナークは、命乞いのため窓から投げられた書類の一部を手元に残しており、助命しなければ黒幕の名を公表すると脅していた。
登場人物
- ルイ・カラタール 中米から来た小柄な紳士。臨時列車でパリへ急ぐ
- エドゥアルド・ゴメズ カラタールの護衛を務める大男の従者
- ジェームス・ブランド リヴァプールの駅長
- ホレース・ムーア 同乗を断られた軍人風の紳士
- ジェームス・マックファースン 臨時列車の車掌
- ジョン・スレーター 臨時列車の機関手
- ヘルバルト・ドゥ・レルナーク マルセイユの監獄で死刑を待つ男
冒頭部(原文より)
はしがき 死刑を宣告されて今マルセイユ監獄に繋がれているヘルバルト・ドゥ・レルナークの告白は、私の信ずるところでは、どこの国の犯罪史を繙いてみても、絶対的に先例が無かっただろう‥‥‥と思われるような、あの異常な事件の上にようやく一道の光明を投げあたえた。官辺では、この事件を論ずることを明らかに避けているけれど、そして新聞もそれに調子を合せてほとんど沈黙を守っているけれど、とにかく我々は、この大犯罪者の告白によって、一つの驚嘆すべき事件の謎が解かれたものと見なければならない。その事件とは、今から八年も前に起った出来事でもあり、かつ、当時はある外交上の危機がわが英国民の注意を一せいに呼集めていた秋だったため、事件の重大な割合には、人々に感動を与えることが薄かったという事情もあるので、従って、記者がその事件について、集めた材料から知り得た限りの確実さをもって、ここにその顛末を述べるのも無駄ではないと信ずる次第だ。
「臨時急行列車の紛失」コナン・ドイル(青空文庫)
末尾部(原文より)
『追――以上の陳述を読み直した時、自分はただ一つの言い洩しのあったことを発見する。それは不幸なる人マックファースンに関してである。彼は愚かにも彼の妻宛に手紙を出して、紐育で会う約束をしたのだ。彼のような奴が、自己の大秘密を女に打明けかねまいかどうか、全く知れたものではない。彼すでに妻に手紙を送ったことによって、我々の堅い誓いを破っている以上、我々は彼を信用することが出来なくなった。そこで我々は彼をして、妻が亜米利加へやって来ても決して会わないことを誓うべく余儀なくさせるため、断乎として迫った次第だ。』(完)
「臨時急行列車の紛失」コナン・ドイル(青空文庫)
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