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探偵小説アルセーヌ・ルパン(ルブラン)のあらすじ・登場人物

予告どおり消えた十二枚の錦

  • ミステリ
  • 翻訳

ルブラン 1922年(大正11年)12月

文字数
16,232字
読了目安
約32分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

モーリス・ルブランのルパン物の短編「白鳥の首のエディス」(原題 Edith au cou de cygne)を訳したもので、婦人文化研究会が1922年(大正11年)12月に「婦人パンフレツト」の第八輯として刊行した。ブラジルの富豪を名乗るスパルミエント大佐が所有する十二枚の綴れ錦は、ウィリアム征服王のイングランド征服を織り出した古い壁布で、輸送中に一枚が盗まれ、ルパンからは今度は全部いただくという予告状が届く。大佐は邸を要塞のように固め、保険会社の探偵を雇って披露の宴を開く。夫人エディスの面影を壁布の王妃に重ねる会話や、宴のさなかに鳴り響く電鈴など、舞台を整えてから事件を起こす組み立てで、八章の短い紙幅のなかでガニマール刑事の推理へと読者を導いていく。

あらすじ

三年前、ブラジルの富豪スパルミエント大佐が貨車に積んでいた綴れ錦の箱が破られ、壁布が一枚盗まれた。犯行はアルセーヌ・ルパンの仕業と知れたが、盗品はまもなく警察に取り戻される。するとルパンから、今度は十二枚全部をいただくという手紙が大佐に届いた。大佐はパリの邸の裏手の窓をすべて塗りつぶし、陳列室の窓に電鈴の仕掛けを施し、盗難保険をかけ、保険会社の三人の探偵に階下を見張らせる。披露の宴の夜、客たちは壁布に描かれた、戦死した王ハロルドの亡骸を探す王妃エディスの姿が、同じ名を持つ大佐夫人によく似ていると口々に言い、大佐はこれが盗まれたら自殺するほかないと笑う。その直後、電鈴が鳴り響き、明かりが消えて邸は大混乱に陥るが、壁布は無事だった。ところが翌朝、陳列室から十二枚の壁布が残らず消えていた。大佐は「お前の名は最後まで思いつづける」という書き置きを残して飛び出し、夕方、トンネルの出口で顔のつぶれた轢死体が見つかる。夫人はそれを夫だと認め、世間はルパンが初めて人の命を奪ったと憤る。ガニマール刑事は人を殺さないはずのルパンの流儀と、内部の者にしかできない犯行の矛盾に悩み抜き、リイユの屍体陳列所から死体が盗まれたという記事に行き当たる。轢死体は替え玉で、大佐こそルパンの変装であり、狙いは壁布にかけた八十万フランの保険金、悲嘆に暮れる夫人はルパンの協力者ソーニャ・クリシュノフだった。ルパン自身も召使に化けて邸に潜んでいると突き止めたガニマールは、捜索課長と警官隊を率いて夜中に踏み込むが、部屋はどれももぬけの殻だった。机の上には、階下の電話がソーニャの部屋に通じていたことを明かし、四十五万フランの損害を防いだガニマールの腕前を称えるルパンの置き手紙が残されていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  今から三年前のことである。ブレスト発の列車がレンヌ駅に著いた時、その一貨車の扉の破壊されているのが見出だされた。この貨車はブレジリアの富豪スパルミエント大佐の借切ったもので、中には綴れ錦の壁布を入れた箱がいくつも積込まれていたが、箱の一つは破られて、中の錦の一枚がなくなっていた。  スパルミエント大佐は、夫人と一緒に同じ列車に乗っていたが、これを知ると、鉄道会社に談判を持ち込んで、一枚が盗まれても他の物の値打まで非常に下るからとて、莫大の損害賠償を請求した。  問題は起った。警察は犯人の捜索に主力を集中した。鉄道会社でも少なからぬ懸賞金を投じてこれに声援した。  この騒ぎの真中の警視庁へ、一通の手紙がまい込んだ。開いてみると、今回の窃盗事件はアルセーヌ・ルパンの指揮の下に行われ、贓品は翌日北アメリカへ向けて送られた。という文面である。警視庁は俄に活動を進めた。同夜サンラザール停車塲で、一刑事のために彼の錦が一行李の中から発見された。  この窃盗はルパンの失敗に終った。

「探偵小説アルセーヌ・ルパン」ルブラン(青空文庫)

末尾部(原文より)

 いや、実は、不思議でも何でもない。それには明白な理由があった、テーブルの上にはちゃんとガニマール殿という一通の手紙が置かれてあった。それはまさしくルパンの置手紙である。中にはすべての事情こまごまと、しかもそれは、あたかも主人が召使に与える説明書のようなものであった。  その文章に曰く  アルセーヌ・ルパン、紳士強盗、予備陸軍大佐スパルミエント、同下男及び前屍体陳列所紛失屍体たる余は、ガニマールと称する者の当邸における勤務ぶりを見て、すこぶる小才あり、かつ頓智ある者なりと考ふ。依ってこれを証明す。全力をあげて職務に勉励し、何等の根拠なきによく余の計画を看破し、保険会社をして四十五万フランの損害を妨ぎ得たり。ただし、階下の電話はソーニャ・クリシュノフの部屋に装置されある電話と相通ぜることを知らず、捜索課長へ通報すると同時に、余に一早く事情を報告したる功により、莫大なる保険金の損害を容赦し、かつその機敏なる智能を賞するものなり。もしそれ電話装置を看破し能はざりし如きは大功中の小過、毫もその勝利の価を減ずべきものにあらず。ここに感嘆と尊敬との意を表す。以上。 アルセーヌ・ルパン

「探偵小説アルセーヌ・ルパン」ルブラン(青空文庫)

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