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空家の冒険(コナン・ドイル)のあらすじ・登場人物

死んだはずの男が帰ってきた

  • ミステリ
  • 翻訳

コナン・ドイル 訳者 三上於菟吉 1929年(昭和4年)10月

文字数
24,107字
読了目安
約48分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

ライヘンバッハの滝壺に消えたはずのシャーロック・ホームズが、三年の空白を経てワトスンの前に姿を現す一篇(1903年)。「シャーロック・ホームズの帰還」の巻頭を飾り、作者が読者の要望に押されて名探偵を生き返らせた、シリーズ屈指の名場面として知られる。訳したのは「雪之丞変化」の作者・三上於菟吉で、平凡社「世界探偵小説全集」の一冊として1929年(昭和4年)に刊行された。昭和初期の日本でホームズがどう読まれていたかを伝える訳文でもある。

あらすじ

一八九四年の春、ロナルド・アデイア卿が密室同然の自室で射殺されるという奇怪な事件が起こり、ロンドンじゅうを騒がせる。妻を亡くし、ホームズを失って久しいワトスンは、職業的な習慣から現場の周辺を歩きまわり、そこで本をかかえた背の曲がった老人とぶつかった。やがて診察室に現れたその老人が、みるみる姿勢を正し、ホームズその人になるのを見て、ワトスンは生まれて初めて気を失う。ホームズは三年間の消息を語った。ライヘンバッハの滝でモリアーティ教授を谷底へ落としたあと、彼は日本の格闘術の心得で身をかわして生き延び、崖の上に身をひそめていたこと。そのとき岩を落として自分を殺そうとした男が、教授の一味で残る最も危険な人物、セバスチャン・モラン大佐であること。チベットからペルシャ、フランスへと姿を変えて旅をし、兄マイクロフトの助けだけで潜伏してきたこと。その夜、二人はベイカー街の向かいの空家に忍びこむ。窓ぎわには蝋人形の影がゆらぎ、やがて足音を忍ばせて現れた男が、音のしない空気銃を組み立て、その影に狙いをつける——。

登場人物

冒頭部(原文より)

一八九四年の春、――ロナルド・アデイア氏が全く不可解な、奇怪極まる事情の下に惨殺されたのは、当時はなはだ有名な事件で、ロンドン市民は一斉に好奇の目をり、殊に社交界の驚愕は大変なものであった。  警察側の探査に得られた、犯罪の詳細については、世間はもう知悉してしまった形であるが、しかしこの事件の発生当時は、その犯罪の大部分は、秘密に附されたのであった。そしてまた起訴のためにも、その事実の詳細などは、世間に発表する必要などはないほど、圧倒的な大事件であったのである。さてその後十年、――私はようやくこの驚異すべき大事件の、散乱した記憶を集めて、精細に発表する機会を得たわけである。

「空家の冒険」コナン・ドイル(青空文庫)

末尾部(原文より)

以て如件なんだが、さてこれで級第かね?」 「ふむ、なるほど、そう云われれば、ずいぶんよく筋道が立っているね」 「まあこうしたことは、審理によって、いよいよ確証され、あるいは覆されよう。まあとにかくかくして、モラン大佐はもう、吾々の煩累となることはなくなったし、あのフォン・ヘルダーの有名な空気銃は、警視庁の陳列館の、珍品として並べられよう。そしてこのシャーロック・ホームズ先生はまた、ロンドンの複雑した生活の齎す幾多の興味ある問題の検討に、思うままに生涯を捧げることが出来ることになったと云うわけだ」

「空家の冒険」コナン・ドイル(青空文庫)

名文

そしてまた振り返ると、机の向うから、シャーロック・ホームズが、微笑しながらこっちを向いて立っている。私はすっくと立ち上った。そして数秒間の間、私は、混乱するような驚愕と共に、彼を見つめた。そして私は見つめ見つめたがさて、私はたしかに後にも先にも生涯にただ一度の、気絶をしてしまったらしかった。

死んだと思われていたホームズがワトスンの前に現れる、シリーズ屈指の名場面。三年ぶりの再会に、ワトスンは生涯ただ一度の気絶をする。

「すまない、すまない。実にすまなかった。僕はまさか、君はそんなにまで驚くとは思わなかったのだ」

気絶から覚めたワトスンにホームズがかける言葉。いつも冷静な名探偵が友を案じて詫びる、二人の友情がにじむ一言。

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